女性が、男性に妻のあることを知りながら情交関係を結んだとしても、情交の動機が主として男性の詐言を信じたことに原因している場合で、男性側の情交関係を結んだ動機、詐言の内容程度およびその内容についての女性の認識等諸般の事情を斟酌し、女性側における動機に内在する不法の程度に比し、男性側における違法性が著しく大きいものと評価できるときには、貞操等の侵害を理由とする女性の男性に対する慰籍料請求は、許される。
男性に妻のあることを知りながら情交関係を結んだ女性の慰籍料請求
民法709条,民法710条,民法708条
判旨
独身女性が相手に妻がいることを知って情交関係を持った場合でも、男性側の違法性が著しく大きいときは、不法原因給付(民法708条)の法意に反せず慰謝料請求が認められる。
問題の所在(論点)
既婚者であることを知りながら情交関係を持った女性による貞操権侵害(民法709条)に基づく慰謝料請求が、公序良俗違反ないし不法原因給付(民法708条)の法意により制限されるか。
規範
女性が情交関係を結んだ動機が主として男性の詐言を信じたことにあり、男性側の動機や詐言の内容、女性の認識等を総合考慮して、情交関係を誘起した責任が主として男性にある場合であって、女性側の不法の程度に比し、男性側の違法性が著しく大きいと評価できるときは、貞操権侵害を理由とする慰謝料請求が許容される。
重要事実
上告人(男性・米国籍)は既婚者であったが、19歳の未経験で思慮不十分な被上告人(女性)に対し、真実はないのに「妻と離婚して君と結婚する」との詐言を用いて誤信させ、約1年間にわたり情交関係を継続した。被上告人が妊娠すると、上告人は交際を絶った。なお、当時上告人の妻に離婚の意思はなく、離婚できる状況にもなかった。
あてはめ
上告人は、単なる性的享楽の目的で、若年で未経験な被上告人の思慮不十分につけ込み、虚偽の結婚約束を弄して情交を誘起した。1年以上の継続や妊娠後の困窮という結果に照らせば、本件関係を誘起した責任は主として上告人にあり、被上告人の不法性に比して上告人の違法性が著しく大きいと評価できる。被上告人の過失は慰謝料額の算定で考慮されるにすぎない。
結論
被上告人の請求は認められる。相手に配偶者がいることを知っていたとしても、男性側の違法性が著しく大きい本件では、不法原因給付を理由に請求を拒むことはできない。
実務上の射程
不倫相手の女性からの慰謝料請求(貞操権侵害)の可否に関するリーディングケース。相手が既婚者と知っている以上、原則として請求は困難だが、男性側の欺罔・強要等の態様が極めて悪質な場合に例外を認める「比較不法論」の枠組みを提示している。
事件番号: 昭和31(オ)550 / 裁判年月日: 昭和33年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】配偶者のある者と不貞行為を行った第三者は、他方配偶者が不貞を黙認・挑発したなどの特段の事情がない限り、不法行為責任を負う。他方配偶者の不貞や監督不十分といった事由は、賠償額を定める際の過失相殺の対象となり得るにとどまり、責任そのものを否定する根拠にはならない。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人…