一、使用者がその従業員に対して金品の不正隠匿の摘発・防止のために行なう所持品検査は、これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として、職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければならず、このようなものとしての所持品検査が就業規則その他明示の根拠に基づいて行なわれるときは、従業員は、個別的な場合にその方法や程度が妥当を欠く等特段の事情がないかぎり、検査を受忍すべき義務がある。 二、私鉄の使用者が、「社員が業務の正常な秩序維持のためその所持品の検査を求められたときは、これを拒んではならない。」との就業規則の条項に基づき、組合と協議のうえ、電車運転士ら乗務員一同に対し、脱靴が自然に行なわれるよう配慮して、靴の中の検査を実施しようとした等判示事実関係のもとにおいては、当該乗務員は右検査に応ずる義務があり、この場合、被検査者の一人が脱靴を拒否したことを理由とする懲戒解雇は違法ではない。
一、従業員の金品の不正隠匿の摘発・防止のために行なわれる所持品検査が許されるための要件と従業員の検査の受忍義務 二、私鉄の電車運転士が脱靴を伴う靴の中の検査を拒否したことを理由とする懲戒解雇が違法でないとされた事例
労働基準法89条
判旨
就業規則等に基づく所持品検査は、合理的理由があり、一般的妥当な方法・程度で画一的に実施される等の要件を満たす限り、従業員に受忍義務がある。本件の脱靴を伴う検査は、不正摘発の必要性や組合の合意、適切な実施方法に照らし適法であり、拒否した従業員への懲戒解雇は解雇権濫用に当たらない。
問題の所在(論点)
就業規則に基づく所持品検査の適法性と受忍義務の限界、および脱靴拒否を理由とする懲戒解雇の妥当性。
規範
企業の所持品検査が適法として従業員に受忍義務が生じるためには、①検査を必要とする合理的理由があり、②一般的に妥当な方法と程度で、③制度として職場従業員に対し画一的に実施されるものでなければならない。さらに、④就業規則等に明示の根拠が必要である。これらの要件を満たす場合、個別的な場面で方法・程度が妥当を欠く等の特段の事情がない限り、従業員は検査を受忍すべき義務を負う。
重要事実
運輸業を営む被上告会社は、乗務員による運賃不正隠匿を防止するため、就業規則に基づき所持品検査を実施していた。過去に靴中への隠匿が多かったことから、会社は労働組合と協議を重ね、脱靴を含む検査の励行について合意を得た。実施にあたっては検査場に踏板を敷く等の改善を行い、全組合員に周知した。電車運転士である上告人は、検査に際し帽子や携帯品は提示したが、靴は所持品ではないと主張して脱靴を拒否した。会社はこれを職務上の指示に対する不当な反抗(就業規則の懲戒事由)として懲戒解雇した。
あてはめ
①合理的理由:運賃不正隠匿の摘発・防止は企業運営上必要であり、実際に靴中への隠匿例も多かったため、検査の必要性が認められる。②方法・程度の妥当性:検査場の施設改善(踏板の設置)や監督者への教育が行われ、人権尊重に配慮されている。労働組合との合意や周知期間も設けられており、社会的相当性を逸脱しない。③画一的実施:特定の個人を標的とせず、制度として乗務員全員に画一的に実施されている。④根拠規定:就業規則8条に所持品検査の規定があり、脱靴もその範疇に含まれる。本件では、上告人の感情を刺激しないよう努めた検査員の態度にも問題はなく、特段の事情は認められない。したがって、上告人には受忍義務があり、拒否は就業規則違反に該当する。
結論
本件所持品検査は適法であり、上告人にはこれを受忍する義務があった。拒否行為は就業規則所定の懲戒解雇事由に該当し、解雇権の濫用にも当たらないため、本件懲戒解雇は有効である。
実務上の射程
本判決は、施設管理権や企業秩序維持に基づく所持品検査の限界を示したリーディングケースである。答案上は、まずプライバシー権の侵害を前提としつつ、上記4要件(合理的理由、方法・程度の妥当性、画一性、根拠規定)を検討する枠組みとして活用する。身体の直接捜索に近い「脱靴」のような態様であっても、労使合意や手続的適正があれば適法となり得る点に注意が必要である。
事件番号: 昭和49(オ)687 / 裁判年月日: 昭和52年12月13日 / 結論: 破棄自判
労働者は、使用者の行う他の労働者の企業秩序違反事件の調査について、これに協力することがその職責に照らし職務内容となつていると認められる場合でないか、又は調査対象である違反行為の性質・内容右違反行為見聞の機会と職務執行との関連性、より適切な調査方法の有無等諸般の事情から総合的に判断して、右調査に協力することが労務提供義務…
事件番号: 昭和40(オ)145 / 裁判年月日: 昭和43年12月25日 / 結論: 棄却
一、使用者が、あらたな就業規則の作成または変更によつて、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないが、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されないと解すべきである。 二、従来停年制のな…
事件番号: 昭和43(オ)932 / 裁判年月日: 昭和48年12月12日 / 結論: 破棄差戻
一、憲法一四条や一九条の規定は、直接私人相互間の関係に適用されるものではない。 二、企業者が特定の思想、信条を有する労働者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。 三、労働基準法三条は、労働者の雇入れそのものを制約する規定ではない。 四、労働者を雇い入れようとする企業者が、その…