自動車がエンジンの故障のため自力で走行できない場合でも、当該自動車が、ハンドルやブレーキの操作により操縦の自由を有し、これらの装置を操作しながらロープで牽引されて走行しているときは、右自動車の走行は、自動車損害賠償保障法第二条第二項にいう「運行」にあたる。
自動車がエンジンの故障のためロープで牽引されて走行している場合と自動車損害賠償保障法第二条第二項にいう「運行」
自動車損害賠償保障法2条2項,自動車損害賠償保障法3条
判旨
エンジン故障により他車に牽引されている自動車であっても、ハンドルやブレーキ等の装置を操作しながら走行している場合には、自動車損害賠償保障法2条2項の「運行」に該当し、当該走行と被害との間に因果関係が認められる限り、同法3条の「運行によつて」生じた損害といえる。
問題の所在(論点)
1. エンジン故障により他車に牽引されて走行する自動車が、自賠法2条2項の「運行」にあたるか。 2. 牽引走行中の荷台からの飛び降りによる死亡が、同法3条の「運行によつて」生じたものといえるか(因果関係の存否)。
規範
自賠法2条2項にいう「当該装置」とは、原動機装置(エンジン)のみならず、ハンドル装置やブレーキ装置などの走行装置も含まれる。したがって、これらの装置をその用い方に従い操作しながら走行している場合には、たとえ牽引中であっても「運行」にあたる。また、同法3条の「運行によつて」とは、運行と被害との間に相当因果関係があることを要する。
重要事実
被害者Dは、エンジン故障のため他の自動車にロープで牽引されていた本件自動車(貨物自動三輪車)の後部荷台に乗車していた。本件自動車は訴外Eが操縦しており、ハンドルやブレーキの操作が可能な状態であった。牽引走行中、Dが荷台から飛び降りて頭部を強打し、翌日死亡した。上告人は、牽引中の故障車は「運行」にあたらない、または「運行によつて」生じた事故ではないと主張した。
あてはめ
1. 本件自動車はエンジン故障中ではあるが、操縦者Eがハンドル、フットブレーキ、ハンドブレーキを操作し、操縦の自由を有しながら走行していた。これはハンドル等の走行装置をその用法に従って用いているといえるため、「運行」に該当する。 2. 牽引という形態での走行中に、その車両の一部である荷台から被害者が転落(飛び降り)して負傷・死亡したという事実関係に照らせば、当該自動車の運行と死亡との間には因果関係が認められる。
結論
本件自動車の走行は「運行」にあたり、Dの死亡はその「運行によつて」生じたものであるから、自賠法3条に基づく損害賠償責任が認められる。
実務上の射程
自賠法上の「運行」概念につき、装置説(固有装置説)の立場から、エンジンが作動していない牽引状態でもハンドル等の操作があれば運行性を肯定することを明確にした。答案上は、非走行(停車中)や本件のような特殊な走行形態において「当該装置の用法」を検討する際の基礎となる判例である。
事件番号: 昭和48(オ)1169 / 裁判年月日: 昭和49年11月12日 / 結論: 棄却
甲所有の自動車を乙が無断で私用のために運転して事故を起こした場合において、甲が右自動車のドアに鍵をかけず、エンジンキーを差し込んだままこれを第三者が自由に立ち入りうる自己の駐車場に駐車させていた事実があり、また、乙は、事故の数時間前まで甲の従業員であり、短時間内に返還する予定で乗り出し、しかし乗り出してから一〇分ないし…