商品の清算取引において、仲買人が委託者に対し、一定の期限を指定して委託証拠金の不足額を支払うよう催告し、あわせてその期限までに右証拠金を支払わないときは委託建玉を処分する旨通知したとしても、委託者が右期限内に証拠金の支払をしなかつた場合に、仲買人は右期限の経過した日に右建玉を処分すべき債務を負うものではないと解すべきである。
商品の清算取引の委託者が委託証拠金の追加差入をしない場合と商品仲買人の委託建玉の処分義務
商品取引所法96条
判旨
取引所受託契約準則に基づき、委託者が証拠金を預託しない場合に仲買人が建玉を任意に処分できる規定は、仲買人の損害防止を目的とする権限付与であり、処分義務を課すものではない。したがって、仲買人が一定の期限を設けて処分を予告した場合でも、特段の事情がない限り、期限経過後に直ちに処分しなかったことによる差損金の請求が妨げられることはない。
問題の所在(論点)
仲買人が委託者に対し、証拠金の預託を催告した上で「期限までに支払がないときは建玉を処分する」旨を通知した場合、仲買人は当該期限の経過によって直ちに建玉を処分すべき法的義務を負うか。また、処分が遅れた場合の差損金を委託者に請求できるか。
規範
仲買人に委託建玉の任意処分権を認める約款規定は、委託者の債務不履行による仲買人の損害を防止するために付与された権限であり、仲買人に処分義務を課すものではない。したがって、仲買人が処分の期限を予告した場合であっても、当該期限の経過によって当然に処分債務を負担するものではない。ただし、委託者に対し、処分すべき日を特定して特に通告したなどの「特段の事情」がある場合には、その義務が生じ得る。
重要事実
上告人(委託者)はD取引所の仲買人である被上告人に売買を委託したが、委託証拠金が不足した。被上告人は上告人に対し、昭和32年1月29日付の郵便で、同週末までに不足額14万円を支払わないときは建玉30枚を仕切る(処分する)旨を通知した。しかし、期限内に支払がなかった後、被上告人が実際に仕切りを行ったのは同年2月3日であった。上告人は、被上告人が通知した期限に処分すべき義務を怠ったとして、期限後の処分によって生じた差損金の請求を拒んだ。
あてはめ
本件約款(受託契約準則19条)は仲買人の保護を目的とした権限規定である。被上告人が「その週のうちに支払わないときは仕切る」旨を通知した行為は、あくまで履行の催告と権限行使の予告にすぎず、これによって直ちに特定日に処分すべき債務を負担したとは解されない。また、本件において「委託者に処分すべき日をとくに通告した」等の特段の事情も認められない。したがって、予告した期限から数日後の2月3日に処分がなされたとしても、その間に生じた差損金を含む請求は正当であると評価される。
結論
仲買人は通知した期限に建玉を処分すべき債務を負担したとはいえず、期限後の処分による差損金の支払請求を認容した原判決は正当である。
実務上の射程
約款上の「任意処分権」の性質を権限(権利)と解し、義務ではないことを明示した点に意義がある。答案作成上は、信義則や特段の事情の有無を検討する際の枠組みとして利用できる。特に相場変動がある取引において、債権者側の裁量を広く認める判断として参照すべきである。
事件番号: 昭和44(オ)729 / 裁判年月日: 昭和44年10月28日 / 結論: 棄却
名古屋穀物商品取引所受託契約準則一六条に違反して委託証拠金なしに信用取引により穀物が売買されても、右違反は、商品仲買人と委託者との間の契約の効力に影響を及ぼすものではない。
事件番号: 昭和33(オ)85 / 裁判年月日: 昭和36年3月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】商品取引所における受託契約準則に従う取引において、預け入れられた証拠金が規定の最低額に若干不足していたとしても、諸般の事情から当該準則による取引と認めることができる場合には、追加証拠金の未入を理由とする受託者の処分は適法である。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人に対し、綿糸および人絹の委託買付…