建物収去土地明渡および金銭支払を命じた確定判決を得た債権者が、廃材としての時価が金四万円をこえない右建物に対し、自らこれを競落して収去する予定のもとに、右確定判決に基づいてまず強制競売の申立をしたところ、予想に反して最低競売価額が金一四八万円と定められたにもかかわらず、そのまま競売手続が進行するに任せ、そのために、名義書替料程度の金銭を支払えば敷地を賃借できると考えて右最低競売価額で競落許可決定を得た競落人から、右賃借の申出を受けると、地価の八割に相当する坪金六万四〇〇〇円位の権利金を支払えば、賃貸してもよい旨答えて、競落人をして敷地の賃貸借について希望を抱かせ、競落人が競落代金を完済し、右建物の所有権移転登記と引渡とを受けたのちも、右賃貸条件を固執して、ここに同人に対する右建物収去土地明渡の強制執行のために承継執行文を得たなど原判示のような事情(原判決理由参照)があるときは、右強制執行は、権利の濫用として許されない。
建物収去土地明渡の強制執行が権利の濫用にあたるとされた事例
民法1条,民訴法545条
判旨
建物収去土地明渡の確定判決を有する者が、その建物を自ら強制競売に付しながら、競落人に対して建物収去を求めることは、信義則に照らし権利の濫用(民法1条3項)として許されない。
問題の所在(論点)
建物収去土地明渡の確定判決を得ている債権者が、当該建物を強制競売に付して配当を得た後、その競落人に対して建物収去を求めることが権利の濫用(民法1条3項)にあたるか。
規範
権利の行使が、自己の権利の実現のみを目的とし、結果において相手方に莫大な損害を与えるような方法で行われる場合、特段の事情がない限り、権利の濫用として許されない。特に、自ら招いた状況を利用して相手方に不当な不利益を強いることは、信義則に反し許容されない。
重要事実
上告人は、建物収去土地明渡の確定判決を得た後、建物の強制執行の費用を抑えるため、異例にも当該建物の強制競売を申し立てた。建物の時価は廃材価額(4万円)程度であったが、競売手続では最低競売価額が148万円と高額に設定された。上告人の代理人弁護士は、これを訂正せず放置した。被上告人は、土地所有者が競売に付している以上、敷地を借用できると期待して148万円で競落した。上告人は、被上告人に対し高額な権利金を要求して交渉を難航させ、配当金を受領した後に、被上告人に対し建物収去土地明渡の強制執行を申し立てた。
あてはめ
上告人は、廃材程度の価値しかない建物を、最低競売価額を訂正させず漫然と競売に付しており、土地借用の期待を抱いた競落人が現れることを予期すべきであった。また、代理人弁護士は競落人に対し、建物収去の意思を明確に伝えて納付を断念させる等の被害最小化措置を講じず、むしろ賃貸の希望を抱かせる対応をしていた。このような状況下で、競売による利益(配当金)を得た後に確定判決に基づく収去を強行することは、相手方に莫大な損害を与えるものであり、自己の権利実現のみを目的とする不当な権利行使といえる。被上告人に調査不足があるとしても、なお上告人の行為は正当性を欠く。
結論
上告人が本件承継執行文を得て、被上告人に対し本件建物収去土地明渡の強制執行をすることは、権利の濫用として許されない。
実務上の射程
権利行使の態様が著しく不誠実である場合、確定判決に基づく執行力ある権利であっても民法1条による制約を受けることを示した。答案上では、形式的に要件を満たす権利行使が実質的に著しい不正義を招く場合の修正原理(権利の濫用)の具体的事例として活用できる。
事件番号: 昭和62(オ)491 / 裁判年月日: 昭和63年2月25日 / 結論: 棄却
不動産の引渡命令の発付を受けた買受人が当該不動産を第三者に譲渡したとしても、引渡命令の相手方は、右買受人に対して提起する引渡命令に対する請求異議の訴えにおいて、右譲渡の事実をもつて異議の事由とすることはできない。
事件番号: 昭和29(オ)966 / 裁判年月日: 昭和31年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借権に基づく妨害排除請求権が成立し得る場合であっても、個別の具体的事実関係に照らし、その権利行使が正当な利益を欠き、相手方に不当な不利益を与える場合には、民法1条3項により権利の濫用として許されない。 第1 事案の概要:本件では、上告人が主張する賃借権に基づき、目的物の占有を妨げている者に対して…