土地に対する抵当権の設定当時において地上に建物が存在しなかつた場合には、右抵当権と同一債権の担保を目的として重ねて右土地につき停止条件付代物弁済契約が結ばれた当時には地上に債務者所有の建物が存在したときでも、右代物弁済契約の条件成就後の法律関係につき、民法三八八条の類推適用による法定地上権の成立を認めることはできない。
代物弁済形式の担保権の実行に伴う法律関係につき民法三八八条の類推適用による法定地上権の成立が認められなかつた事例
民法388条,民法482条
判旨
不動産の譲渡担保権者が代物弁済契約に基づき土地の所有権を取得した際、土地と建物が同一所有者に属していても、当該契約に先立つ抵当権設定時に建物が存在しなかった場合には、法定地上権は成立しない。
問題の所在(論点)
債権担保目的の代物弁済契約が実行され、土地と建物の所有者が異なった場合に、民法388条を類推適用して法定地上権が成立するか。特に、契約締結時には建物が存在したが、それに先立つ抵当権設定時には建物が存在しなかった場合の成否が問題となる。
規範
債権担保目的の停止条件付代物弁済契約は、実質的に担保権と同視しうる。したがって、同契約の実行により土地と建物の所有者が異なるに至った場合には、民法388条が類推適用される余地がある。しかし、当該契約に先立ち同一債務を担保する抵当権が設定されていた場合、法定地上権成立の成否は、その抵当権設定時を基準に判断すべきである。抵当権設定時に建物が存在しなかった場合、抵当権者は更地としての担保価値を把握しており、その後に代物弁済契約の形式で担保権が実行されたとしても、建物の存置という負担を課すべきではない。
重要事実
債務者Dは、債権者Eに対し、本件土地に第1・第2順位の抵当権を設定して金員を借り受けたが、その時点では本件建物は存在していなかった(後に建築着手)。その後、DとEは同一債務につき、本件土地・建物を対象とする停止条件付代物弁済契約を締結した。Dの債務不履行により条件が成就し、Eが土地所有権を取得した後、被上告人がEから土地を買い受けた。上告人は、Dから建物を譲り受け占有していたため、被上告人が建物収去土地明渡しを求めて提訴した。上告人は、代物弁済契約締結時には土地・建物がDに帰属していたとして、法定地上権の成立を主張した。
事件番号: 昭和43(オ)846 / 裁判年月日: 昭和44年2月14日 / 結論: 棄却
抵当権設定当時土地および建物の所有者が異なる場合においては、その土地または建物に対する抵当権の実行による競落の際、右土地およぴ建物が同一人の所有に帰していても、民法三八八条の規定は適用または準用されない。
あてはめ
本件代物弁済契約は担保権の実質を有するため、民法388条類推適用の対象となりうる。しかし、本件では同契約に先立ち、同一債権を担保するための抵当権が設定されている。抵当権設定時において建物は未着工であり、土地と建物が同一所有者に属するという要件を欠いていた。Eは、建物の負担がないものとして土地の担保価値を把握していたといえる。Eが抵当権実行ではなく代物弁済という手段を選択したとしても、把握していた担保価値を損なうべきではない。したがって、代物弁済契約締結時に土地・建物が同一所有者であっても、先立つ抵当権設定時の状況を優先すべきである。
結論
法定地上権は成立しない。したがって、上告人は敷地占有の権原を欠き、建物収去土地明渡しの義務を負う。
実務上の射程
譲渡担保や代物弁済予約等の非典型担保においても民法388条が類推適用されることを認めた上で、先行する抵当権がある場合にはその設定時を基準とする「抵当権優先の原則」を確立した判例である。答案では、担保権の種類が混在する場合でも、担保権者が把握した交換価値を保護する観点から、時間的に最も先行する担保権の設定時を基準に判断すべきであると論じる際に活用する。
事件番号: 昭和47(オ)461 / 裁判年月日: 昭和47年7月20日 / 結論: 棄却
消極(改正国税徴収法・昭和三四年法律第一四七号施行後の時期における事案)
事件番号: 昭和47(オ)674 / 裁判年月日: 昭和47年11月2日 / 結論: 棄却
一、土地に対する第一順位抵当権の設定当時その地上に建物がなく、第二順位抵当権の設定当時には建物が建築されていた場合に、第二順位抵当権者の申立により土地が競売されたときでも、右建物のため法定地上権が成立するものではない。 二、土地の抵当権設定当時その土地が更地であつた場合には、その後に地上に建物が建築されることを抵当権者…
事件番号: 昭和46(オ)844 / 裁判年月日: 昭和46年12月21日 / 結論: 棄却
建物の共有者の一人がその敷地を所有する場合において、右土地に設定された抵当権が実行され、第三者がこれを競落したときは、右土地につき、建物共有者全員のために、法定地上権が成立するものと解すべきである。
事件番号: 昭和37(オ)55 / 裁判年月日: 昭和39年3月16日 / 結論: 破棄差戻
改正国税徴収法(昭和三四年法律第一四七号)施行前に抵当権の設定されていない同一所有者に属する土地およびその地上建物のうち土地のみが公売によつて競落された場合には、民法第三八八条を類推適用して地上権の設定があつたものとみなすべきではない。(昭和三五年(オ)第六一一号同三八年一〇月一日第三小法廷判決同旨)