一、商法第五〇四条本文は、本人のための商行為の代理については、代理人が本人のためにすることを示さなくても、その行為は本人に対して効力を生ずるものとして、いわゆる顕名主義に対する例外を認めたものである。 二、相手方において、代理人が本人のためにすることを知らなかつたときは、商法第五〇四条但書によつて、相手方と代理人との間にも本人相手方間におけると同一の法律関係が生じ、相手方が、その選択に従い、本人との法律関係を否定し、代理人との法律関係を主張したときは、本人は、もはや相手方に対し、右本人粗手方間の法律関係を主張することができない。
一、商法第五〇四条本文の法意 二、商法第五〇四条但書にいう「履行ノ請求」に伴う法律関係
商法504条,民法99条1項,民法100条
判旨
商法504条但書により相手方が代理人との法律関係を選択した場合には、本人は相手方に対し本人との間の法律関係の存在を主張できない。また、同条但書の保護を受ける相手方は、代理人が本人のためにすることを知らず、かつ、知らなかったことに過失がない者に限られる。
問題の所在(論点)
商法504条但書が適用される相手方の主観的要件(過失の有無)、および相手方が同条但書に基づき代理人との法律関係を選択した場合に、本人が相手方に対して法律関係の効力を主張できるか。
規範
商法504条本文により商行為の代理では非顕名主義が採用されているが、同条但書は、代理人が本人のためにすることを知らなかった(善意・無過失の)相手方を保護するため、相手方が代理人に対して履行請求をすることを認めている。この趣旨は、相手方の選択により代理人との間の法律関係を主張することを許容する点にある。したがって、相手方が代理人との法律関係を選択したときは、本人は相手方に対し、本人・相手方間の法律関係の存在を主張することはできない。なお、相手方が本人のためにすることを知らなかったことについては相手方が、相手方の過失については代理人(または本人)が立証責任を負う。
重要事実
上告人(本人)の代理人である訴外Dが、被上告人(相手方)との間で売買契約を締結した。この際、Dは顕名を行わなかった。被上告人は、代理関係を認めうる事情や外観が全く存在しなかったため、Dが上告人のために行為したことを知らず、かつ知り得ることもできなかった。被上告人は、契約の当事者はDが代表する訴外E社であり上告人ではないとして、上告人からの請求を拒絶し、代理人側との法律関係を選択する意思を明確にした。
あてはめ
被上告人は、Dが上告人のためにすることを知らず、かつ認定事実によれば「到底これを知り得べきでなかった」ことから、無過失の相手方に該当する。その上で、被上告人は上告人との取引関係を否定し、訴外E社(代理人側)との法律関係を主張している。この場合、商法504条但書の趣旨に基づき、相手方は本人・代理人のいずれかとの法律関係を選択できるところ、被上告人が後者を選択した以上、上告人は被上告人に対して本人・相手方間の法律関係(売買契約の効力)を主張できなくなる。
結論
被上告人は無過失であり商法504条但書の保護を受ける。被上告人が代理人側との法律関係を選択した以上、本人は相手方に履行を請求できず、上告人の請求は棄却される。
実務上の射程
商法504条の「非顕名主義」と「相手方の選択権」に関するリーディングケースである。答案上は、まず本文により本人に効果帰属することを指摘した上で、但書の「相手方」の解釈として善意・無過失が必要であること、および相手方の選択によって本人の主張が遮断される(一種の併存的法律関係の選択的解消)という構成を示す際に用いる。
事件番号: 昭和31(オ)893 / 裁判年月日: 昭和32年11月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が売買契約の成立を主張している場合、裁判所がその代理人によって契約が締結されたと認定しても、処分権主義(民訴法246条)には反しない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、上告人(被告)との間に売買契約が成立したと主張して訴えを提起した。これに対し、原審(控訴審)は、当該売買契約が被上告人…