一 「モリヤゲン」と記載された投票は、候補者守Bが「モリゲン」の通称を有する以上、他に候補者守屋Dがあり、また右Bの父で同じく「モリゲン」の通称を有する守Eに判示の事情が認められるとしても、これを候補者守Bの得票と認めるのが相当である。 二 候補者丹野Fが屋号を丹長と称し、「(記載内容は末尾添付)」をその記号として使用していることが同人の知人間に広く知られているときは「丹野(記載内容は末尾添付)」と記載された投票は、右候補者の得票と認むべく、他事記載ある無効投票と解すべきではない。
一 候補者の通称を記載した投票と認められた事例。 二 候補者に使用されている記号の記載が他事記載にあたらないとされた事例。
公職選挙法68条
判旨
公職選挙法第68条第5号所定の「他事記載」に該当するか否かは、記載が投票者の個性の表示や不真面目な記載にあたるかで判断すべきであり、候補者の屋号に準ずる記号の併記は、投票意思の明確化を意図した附記として有効と解される。
問題の所在(論点)
候補者の氏名に加えて、その候補者の屋号に由来する記号を併記した投票が、公職選挙法第68条第5号(現1項5号)にいう「他事記載」として無効になるか。
規範
自書のほか他事記載がある投票を無効とする公職選挙法68条5号(現68条1項5号)の趣旨は、投票の秘密を保持し、不当な目的による投票を防止する点にある。したがって、氏名のほかに記載された事項が、単に候補者の身分、職業、住所、敬称等を記載したもの(同号但書)や、候補者に対する投票意思を明確にするための附記にとどまり、投票者の個性を表示し又は不真面目な記載と認められない場合には、同号本文の他事記載には該当せず、投票は有効となる。
重要事実
市議会議員選挙において、「丹野『長』」と記載された投票がなされた。候補者丹野は屋号を「丹長」と称しており、その知人等の間では「長」の文字を同人の記号として使用している事実が広く知られていた。この「長」という記載が、同法68条5号本文にいう「他事記載」として投票を無効にするか否かが争点となった。
事件番号: 昭和48(行ツ)110 / 裁判年月日: 昭和49年3月22日 / 結論: 棄却
候補者の氏名の下に「御中」と付記した投票は、公職選挙法六八条五号のいわゆる他事記載あるものとして無効である。
あてはめ
本件における「長」という記号は、候補者丹野の屋号「丹長」に準じ、丹野本人を表示する意味を持つものである。このような記載は、特定の候補者に投票する意思を明確化することを意図した附記にすぎない。また、当該記号の併記をもって投票者の個性を表示したと疑うことも、不真面目な記載であると評価することも困難である。したがって、この記載は同号但書にいう「職業、身分の類」の記載に含まれるか、あるいはそれに準ずるものとして、投票の効力を妨げない。
結論
候補者の氏名に屋号由来の記号を併記した投票は、他事記載による無効とはならず、有効な得票として認めるのが相当である。
実務上の射程
本判決は、他事記載の判断において「投票意思の明確化」という目的を重視し、形式的な記載の有無ではなく、投票の秘密保護という制度趣旨に照らして実質的に判断する枠組みを示している。答案上では、一見して氏名以外の記載がある場合でも、それが候補者の特定を助ける趣旨(通称や屋号等)であれば、同号但書の「職業、身分」を類推・拡張解釈して有効性を基礎付ける論法として有用である。
事件番号: 昭和35(オ)711 / 裁判年月日: 昭和35年10月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】投票用紙に候補者の氏名のほか「江」という敬称を付す記載は、公職選挙法68条5号の他事記載に該当し無効である。一方で、氏名の誤記や他候補者の氏名との混同がある場合でも、他候補者の氏名等と比較して特定の候補者に対する投票意思が認められれば有効となる。 第1 事案の概要:村長選挙の効力に関する訴訟におい…
事件番号: 昭和35(オ)493 / 裁判年月日: 昭和35年9月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法上の投票の効力判定において、候補者の氏名を正確に記載していない投票であっても、その記載内容から特定の候補者を指すと客観的に認められる場合には、当該候補者に対する有効投票として認められる。 第1 事案の概要:村議会議員選挙において、被上告人(候補者)に対するものと考えられる投票の中に、「D…
事件番号: 昭和47(行ツ)24 / 裁判年月日: 昭和47年7月20日 / 結論: 破棄差戻
市議会議員選挙において候補者に中野光弘と白沢実とがある場合に、「中野実」「中の実」と記載された投票は、中野光弘候補が同じころ執行された県議会議員選挙に同じ政党の公認をうけて立候補した荒木実と共同して選挙活動をしていた事実があつても、中野光弘に対する有効投票と解することはできない。
事件番号: 昭和31(オ)237 / 裁判年月日: 昭和31年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法上の投票の効力判定において、投票用紙に記載された文字が判読可能であり、かつ候補者の氏名と同一または類似する場合には、当該投票は有効と解される。本判決は、原審の事実認定および効力判定に法令違背がないとして上告を棄却した。 第1 事案の概要:本件は、選挙における各投票の効力が争われた事案であ…