一、弁済供託における供託金取戻請求が供託官により却下された場合には、供託官を被告として却下処分の取消の訴を提起することができる。 二、弁済供託における供託金取戻請求権の消滅時効は、供託の基礎となつた債務について紛争の解決などによつてその不存在が確定するなど、供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時から進行し、一〇年をもつて完成する。
一、弁済供託における供託金取戻請求が供託官により却下された場合と訴訟の形式 二、弁済供託における供託金取戻請求権の消滅時効の起算点および期間
供託法1条ノ3,供託法8条2項,供託規則38条,民法166条1項,民法167条1項,民法496条1項,行政事件訴訟法3条2項,会計法30条
判旨
供託官による供託物取戻請求の却下は行政処分にあたり、その取消訴訟は適法である。また、弁済供託における取戻請求権の消滅時効は10年であり、その起算点は、供託者が免責を受ける必要が消滅した時(紛争解決時等)と解すべきである。
問題の所在(論点)
1. 供託官による取戻請求の却下行為は行政処分にあたり、抗告訴訟の対象となるか。 2. 弁済供託における供託金取戻請求権の消滅時効期間およびその起算点はいつか。
規範
1. 供託官による供託物取戻請求の却下は、国家機関が公益上の目的から行政機関としての立場で判断を下すものであり、行政処分にあたる。 2. 供託金払渡請求権は民法上の寄託契約の性質を有するため、消滅時効期間は10年(民法167条1項※当時)である。 3. 消滅時効の起算点となる「権利を行使することができる時」(民法166条1項)とは、単に法律上の障害がないだけでなく、権利の性質上、権利行使が現実に期待できることを必要とする。弁済供託においては、供託の基礎となった債務について紛争の解決等によりその不存在が確定するなど、供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時を起算点とすべきである。
重要事実
事件番号: 平成10(行ツ)22 / 裁判年月日: 平成13年11月27日 / 結論: 棄却
1 弁済供託における供託金取戻請求権の消滅時効は,過失なくして債権者を確知することができないことを原因とする弁済供託の場合を含め,供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時から進行する。 2 過失なくして債権者を確知することができないことを原因として賃料債務についてされた弁済供託につき,同債務の各弁済期の翌日から民法1…
被上告人は土地賃貸借の存否を巡り、賃料を供託していたが、後に最高裁での和解により賃借権の不存在を認め、土地を明け渡すこととなった。和解において賃料相当損害金債権が放棄されたため、被上告人は供託金の取戻を請求したが、供託官(上告人)は供託時から10年以上経過しているとして時効消滅を理由に却下処分を行った。被上告人はこの却下処分の取消しを求めて提訴した。
あてはめ
1. 供託法上の却下処分には特別の不服審査手続が設けられており、供託官には行政機関としての立場から請求の理由を判断する権限があるため、本件訴訟は適法な取消訴訟である。 2. 供託の基礎となった事実に争いがある間は、払渡を受けることが自己の主張の撤回とみなされる恐れがあり、現実的な権利行使は期待できない。本件では、和解成立により債務の不存在が確定し、免責の必要が消滅した時点から時効が進行すると解すべきであり、供託時から進行するとした上告人の判断は誤りである。
結論
本件取消訴訟は適法であり、取戻請求権は消滅時効にかかっていない。したがって、却下処分を取り消した原審の判断は正当である。
実務上の射程
供託事務の公法的側面を認めつつ、実体法上の権利関係については民法の原則を適用する二元的な枠組みを示した。特に消滅時効における「権利を行使することができる時」の解釈について、客観的な法律上の障害の有無だけでなく「現実的な期待可能性」という実質的要素を考慮する規範として、他分野の時効論でも参照される重要な射程を有する。
事件番号: 平成27(行ヒ)374 / 裁判年月日: 平成28年3月31日 / 結論: 破棄自判
宅地建物取引業法30条1項前段所定の事由が発生した場合において,同条2項本文所定の公告がされなかったときは,営業保証金の取戻請求権の消滅時効は,当該事由が発生した時から10年を経過した時から進行する。
事件番号: 昭和56(行ツ)83 / 裁判年月日: 昭和59年11月26日 / 結論: 棄却
供託申請についての供託官の審査権限は、供託書及び添付書類のみに基づいてするいわゆる形式的審査の範囲にとどまるが、その審査の対象は、手続的要件に限られるものではなく、供託原因の存否等の実体的要件にも及ぶ。
事件番号: 昭和42(行ツ)13 / 裁判年月日: 昭和43年6月21日 / 結論: 棄却
仮執行宣言付判決による仮執行の免脱のために供された担保は、その判決の確定に至るまで、勝訴原告が仮執行をすることができなかつたことによつて被ることのあるべき損害のみを担保し、本案の請求までも担保するものではない。
事件番号: 昭和36(オ)340 / 裁判年月日: 昭和37年7月13日 / 結論: 破棄差戻
弁済供託の供託金取戻請求権が転付命令により供託者の他の債権者に転付されただけでは、被供託者の供託金還付請求権に消長をきたすものではなく、したがつて供託の効力が失われるものではない。