弁済供託の供託金取戻請求権が転付命令により供託者の他の債権者に転付されただけでは、被供託者の供託金還付請求権に消長をきたすものではなく、したがつて供託の効力が失われるものではない。
弁済供託の供託金取戻請求権に対する転付命令の効力。
民法496条,民訴法601条
判旨
弁済供託の供託金取戻請求権が第三者に転付されたとしても、それによって被供託者の供託金還付請求権が消滅するわけではなく、供託の効力が失われることもない。
問題の所在(論点)
供託者の供託金取戻請求権が第三者に転付されたことにより、当該弁済供託の効力が消滅するか(還付請求権に影響を及ぼすか)。
規範
弁済供託がなされた場合、供託者には「供託金取戻請求権」が、被供託者には「供託金還付請求権」がそれぞれ発生する。供託者の有する取戻請求権が他の債権者へ転付されたとしても、それは還付請求権の存否に影響を与えるものではなく、供託による弁済の効力も当然には失われない。
重要事実
上告人(供託者)は、弁済期限前に元利金を供託したが、その後に上告人の他の債権者が上告人の「供託金取戻請求権」を差し押さえ、転付命令を得てこれが全部転付された。原審は、取戻請求権が転付された以上、供託はしなかったものとみなされ、弁済の効力も失われると判断したため、上告人が上告した。
あてはめ
供託金取戻請求権と供託金還付請求権は別個の権利である。取戻請求権が転付されたという事実は、供託者側の権利関係の変動に過ぎず、被供託者が供託金を受け取るべき還付請求権の存否や内容に何ら消長を来すものではない。したがって、転付の事実のみをもって直ちに「供託をしなかったものとみなす」ことはできず、弁済の効力を否定することはできない。
結論
取戻請求権が転付されたからといって弁済の効力は失われない。原審の判断には法令の解釈適用の誤りがあるため、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
弁済供託(民法494条以下)の効力が維持される条件に関する判例である。民法496条1項は、供託者が取戻しをした場合に供託がなかったものとみなすが、本件は「供託者が自ら取り戻した」のではなく「取戻請求権が差し押さえ・転付された」に過ぎないため、同条の直接適用はない。実務上は、取戻請求権への強制執行があっても、被供託者の還付請求権が優先されるべき場面を確認する際に有用である。
事件番号: 昭和36(オ)953 / 裁判年月日: 昭和38年8月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当な反対給付を条件とする履行の提供は「債務の本旨に従った」ものとはいえず、その後の供託も供託原因を欠き無効である。また、供託金取戻請求権が転付され執行債権者がこれを取り戻したときは、民法496条1項の類推適用により供託は遡及的に効力を失う。 第1 事案の概要:共有物分割調停により、上告人A(買主…
事件番号: 平成7(オ)514 / 裁判年月日: 平成10年3月24日 / 結論: 棄却
建物の賃料債権の差押えの効力が発生した後に、建物が譲渡され賃貸人の地位が譲受人に移転したとしても、譲受人は、建物の賃料債権を取得したことを差押債権者に対抗することができない。
事件番号: 昭和34(オ)385 / 裁判年月日: 昭和36年8月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】契約解除に伴う供託金を受領した事実のみをもって、直ちに解除を承認する意思表示があったとみることはできず、証拠関係に基づき個別に判断されるべきである。 第1 事案の概要:原告(被上告人)に対し、被告(上告人)が契約解除を主張し、これに伴う精算金等の供託を行った。原告は本件供託金を受領したが、その後の…
事件番号: 昭和36(オ)952 / 裁判年月日: 昭和38年8月23日 / 結論: 棄却
反対給付に関する約旨の一部について解釈が分れ意見が対立している場合に、その部分の先履行を要求しながら代金の提供をしても、債務の本旨に従つた履行の提供とはいえない。