一 会社が債権者からの差押をうけるおそれがあつたので、第三者が当該会社の財産管理処分の任にあたつていた取締役と図り、会社所有の不動産につき売買を仮装して、自己の名義に所有権移転登記手続を経由した場合において、やがて会社に対し右不動産の所有名義を返還すべきことを知悉していたなど、判示事実関係のもとでは、第三者は民法第七〇八条本文にいう不法原因給付を主張して不動産所有名義の返還請求を拒むことができない。 二 株式会社が代表取締役を欠くにいたつた場合において、会社を代表して訴を提起するため仮代表取締役の選任の方法によつたのでは遅滞のため損害を受けるおそれがあるときは、利害関係人は、民訴法第五八条、第五六条の規定を類推して特別代理人の選任を申請することができる。
一 債権者からの差押を免れるためにした不動産の仮装売買が不法原因給付にあたらないとされた事例 二 代表取締役の欠けている株式会社の訴提起と民訴法第五八条第五六条の類推適用
民法708条,刑法96条の2,民訴法58条,民訴法56条
判旨
強制執行を免れる目的でなされた財産の仮装譲渡は、その目的があることのみをもって直ちに民法708条の「不法原因給付」に該当するとはいえず、原則として給付した財産の返還を請求し得る。
問題の所在(論点)
強制執行を免れる目的で行われた通謀虚偽表示(仮装譲渡)が、民法708条にいう「不法な原因」に基づく給付に該当し、給付者の返還請求が否定されるか。
規範
強制執行を免れる目的で財産を仮装譲渡したとしても、その一事をもって当然に民法708条の不法原因給付に該当するわけではない。返還請求を否定することは、当事者の意思に反するのみならず、譲受人を不当に利得させ、他方で債権者が強制執行を行う機会を奪うことになり、仮装譲渡を抑制しようとする法の趣旨にも反するからである。
重要事実
上告人は、被上告会社の財政状態が悪化し、所有財産が債権者から差し押さえられるおそれが生じた際、同社の取締役と通謀して不動産の売買を仮装し、上告人名義に所有権移転登記を完了させた。その後、被上告会社が上告人に対して当該不動産の返還(名義の回復)を求めたところ、上告人が本件仮装譲渡は不法原因給付であるとして返還を拒んだ事案。
あてはめ
本件における仮装譲渡は、債権者からの差押えを免れる目的でなされたものであるが、当事者間には真実の所有権移転の意思はなく、上告人もいずれ返還すべきことを知悉していた。返還請求を認めない場合、仮装の譲受人である上告人に不当な利得を保持させる一方で、本来の所有者である被上告会社の債権者は当該財産への強制執行ができなくなり、かえって不当な結果を招く。したがって、本件の給付は不法原因給付には当たらないと評価される。
結論
強制執行を免れる目的の仮装譲渡は不法原因給付に該当せず、被上告会社は上告人に対して不動産の返還請求をなし得る。
実務上の射程
民法708条の『不法』の意義を公序良俗違反(90条)よりも狭く解する実務上、重要な先例である。債権者代位権(423条)や強制執行の有効性確保という観点から、単なる脱法行為にとどまる仮装譲渡については、返還請求を肯定するべきであることを示している。
事件番号: 昭和26(オ)201 / 裁判年月日: 昭和28年5月8日 / 結論: 棄却
不法原因給付の返還のための代物弁済は、有効である。
事件番号: 昭和45(オ)472 / 裁判年月日: 昭和45年10月22日 / 結論: 棄却
建物を建築してその所有権を取得した者が、自己の債権者からの強制執行を免れるため、長男の承諾を得てその名義で所有権保存登記を経由した場合であつても、その登記を経由した当時はいまだ右建物につき現実に強制執行を受けるような客観的状態がなかつたなどの事実関係が認められるときは、長男の名義でなされた右所有権保存登記は、民法七〇八…
事件番号: 昭和39(オ)370 / 裁判年月日: 昭和40年3月26日 / 結論: 棄却
不動産の贈与契約にもとづいて該不動産の所有権移転登記がなされたときは、その引渡の有無をとわず、民法第五五〇条にいう履行が終つたものと解すべきである。
事件番号: 昭和40(オ)1498 / 裁判年月日: 昭和41年5月27日 / 結論: 棄却
債務者が、被担保債権額以下の実価を有する抵当不動産を相当な価格で売却し、その代金を当該債務の弁済に充てて抵当権の消滅をはかる場合には、右不動産売却行為は、民法第四二四条所定の債権者を害する行為にはあたらない。