金銭の騙取者がその金銭で自己の債務を弁済した場合において、債権者がこれを善意で受領したときは、債権者の右金銭の取得は、被騙取者に対する関係で、不当利得とならない。
騙取した金銭による債務の弁済と弁済受領者の不当利得の成否
民法703条
判旨
債務者が第三者から騙取した金銭を自己の債務の弁済に充てた場合、債権者がその事実につき善意であれば、当該金銭の取得は法律上の原因に基づくものであり、不当利得を構成しない。
問題の所在(論点)
騙取金による債務の弁済がなされた場合、被搾取者(上告人)から利得者(被上告人)に対する不当利得返還請求が認められるか。特に、騙取金による弁済に「法律上の原因」が認められるかが争点となった。
規範
不当利得(民法703条)における「法律上の原因」の有無については、利得者が当該金銭を受領する正当な権原があるか否かによって判断される。債務者が第三者から騙取した金銭であっても、債権者がその事情について善意でこれを受領した場合には、有効な弁済の受領として「法律上の原因」が認められる。
重要事実
1. 被上告人(債権者)は、訴外Fに対し蜜柑の売掛代金等の債権を有しており、支払を再三請求していた。 2. Fは、上告人を欺き、蜜柑の買入れを斡旋する口実で前払代金名義の現金14万円を騙取した。 3. Fは、そのうち12万9千円を自己の被上告人らに対する債務の弁済として被上告人に交付した。 4. 被上告人は、その金銭が騙取されたものであることを知らず(善意)、受領した金銭を共同出荷者らと分配した。
あてはめ
本件において、被上告人はFに対して正当な売掛代金債権を有しており、Fから交付された金銭は当該債務の弁済として行われたものである。被上告人は、交付された金銭がFによって上告人から騙取されたものであるという事実につき善意であった。そうである以上、被上告人は有効な弁済として金銭を受領したといえ、受領した金銭を保持することには正当な権原がある。したがって、たとえ原資が騙取金であったとしても、被上告人の利得は法律上の原因に基づくものと解される。
結論
被上告人の金銭取得は不当利得には当たらない。したがって、上告人の請求は認められず、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は「だまし取ったお金による弁済」に関するリーディングケースである。答案上は、金銭の性質(占有と所有の一致、流通性)を背景に、債権者が善意(判例上は重過失がないことも含むと解される)であれば、有効な弁済として法律上の原因が肯定されるという論理で用いる。第三者のためにする弁済の類型や、詐取金による不当利得の一般的枠組みを論じる際に必須の判例である。
事件番号: 昭和31(オ)573 / 裁判年月日: 昭和35年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務者が特定の債務の支払として金銭を提供した場合、その債務が不存在であれば、他に有効な債務が存在したとしても、当該給付は法律上の原因を欠く不当利得となる。また、給付者が債務の不存在を知らない限り、非債弁済の規定は適用されない。 第1 事案の概要:D株式会社は、上告人に対し、屑鉄代金債務と損害賠償債…