宅地建物取引業者が売買の媒介を行なう場合に受ける報酬について、愛知県宅地建物取引業者の報酬額に関する規則(昭和二七年愛知県規則第五九号)の定める最高額により授受される慣習が存在するとするためには、これを相当として首肯するに足りる合理的根拠を必要とし、原判決挙示の証拠のみによつてたやすくこれを認定したのは、審理不尽・理由不備の違法がある。
宅地建物取引業者の受ける報酬額についの慣習の認定に審理不尽・理由不備の違法があるとされた事例
民法92条,民訴法185条,宅地建物取引業法(昭和39年法律第286号による改正前のもの)17条1項,愛知県宅地建物取引業者の報酬額に関する規則(昭和27年愛知県規則第59号)2条
判旨
宅地建物取引業法の報酬規定は不当に多額の報酬を抑止する最高額を定めたものであり、具体的な報酬額は取引額、難易度、労力等の諸般の事情を斟酌して決定されるべきである。特約がない場合に当然に法定最高額を相当報酬額とするには、合理的根拠のある慣習の存在または個別事情に基づく立証を要する。
問題の所在(論点)
報酬額の特約がない媒介契約において、宅地建物取引業法等の規定する法定最高額を、当然に商法512条の「相当な報酬」と認めることができるか。
規範
宅地建物取引業法に基づく報酬規定(最高限度額の定め)は、業者が不当に多額の報酬を受領することを抑止する目的で定められた上限に過ぎない。したがって、特約のない場合に受領すべき「相当の報酬」は、取引額、媒介の難易、期間、労力、その他諸般の事情を総合的に斟酌して決定されるべきであり、当然に法定最高額が適用されるわけではない。これと異なる慣習を認めるには、合理的根拠が必要である。
重要事実
被上告人(宅建業者)が上告人に対し、売買の媒介報酬の支払いを求めた事案。原審は、報酬額の特約がない場合、県知事が定めた基準による最高額をもって報酬とすることが通常であるという慣行が存在すると認定し、特約が認められない本件においても、当然に法定最高額が当事者間の相当な報酬額であると判断して請求を認容した。
あてはめ
媒介報酬は、委託を受けた事務の内容や労力に応じた対価としての性質を有する。本件における報酬額の決定にあたっては、単に最高額規定を参照するだけでなく、実際の取引額や媒介に要した難易度、期間、労力等の具体的事情を検討すべきである。原審は、これらの事情を個別具体的に検討することなく、また法定最高額を当然の報酬とする慣習に合理的な根拠があるかを確認しないまま、安易に慣習を認めて最高額を請求額として認容した。これは審理不尽および理由不備にあたる。
結論
特約がない場合、法定最高額が直ちに相当報酬額となるのではなく、媒介の労力や難易度等の諸般の事情を考慮して算定すべきである。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
商法512条の「相当な報酬」の算定において、業法上の制限額(告示)が直ちに額を確定させるものではないことを示す。司法試験の答案上では、報酬額が争点となった際に、単なる上限規制であることを指摘しつつ、個別事情(媒介の苦労や期間等)をあてはめて相当額を導く際の論拠として使用する。
事件番号: 昭和41(オ)1007 / 裁判年月日: 昭和43年4月2日 / 結論: 棄却
一宅地建物取引業を営む商人が不動産の売買契約を成立させるため、買主を現場に案内し、契約の締結に立ち会い、売買代金額について売主、買主の両者の言い分を調整して、両者をして買主の希望価額以下に合意させ、目的物の受渡、代金の授受に関与した等判示事実関係のもとにおいては、買主との間に明示の売買の媒介契約がされなかつたとしても、…