土地の売買契約において、所有権移転登記手続は代金完済と同時にし、代金完済までは買主は右土地の上に建物等を築造しない旨の付随的約款がつけられている場合にあつて、右約款は、本来契約締結の目的に必要不可欠のものでないが、代金の完全な支払の確保のために重要な意義をもち、その不履行が契約締結の目的の達成に重大な影響を与えるものであるときは、売主は、右約款の不履行を理由として、売買契約を解除することができると解するのが相当である。
土地の売買契約において付随的約款で定められている義務の不履行を理由として契約解除が認められた事例
民法541条
判旨
売買契約において、代金完済まで土地上に工作物を築造しない旨の付随的約款であっても、代金支払の確保のために重要であり、その不履行が契約目的の達成に重大な影響を与える場合には、契約の要素たる債務として解除権が認められる。
問題の所在(論点)
本来は付随的義務にすぎないと考えられる「工作物の築造禁止」等の特約違反が、民法541条(旧法下でも同様)の解除事由となる「契約の要素たる債務」の不履行にあたるか。
規範
売買契約に付随する約款であっても、売主にとって代金の完全な支払の確保のために重要な意義を持ち、買主もその趣旨を合意している場合には、当該約款の債務は契約の要素たる債務にあたる。したがって、その不履行が契約締結の目的達成に重大な影響を与える場合には、債務不履行を理由として契約を解除することができる。
重要事実
売主Xと買主Yは、土地の割賦販売契約を締結した。契約には「所有権移転登記は代金完済と同時に行うこと」「代金完済までは土地上に工作物を築造しないこと」という特別の約款が付されていた。しかし、Yは代金完済前に独断で所有権移転の本登記手続を行い、かつ工作物を築造した。これに対しXは、右約款違反を理由として契約解除の意思表示をした。
事件番号: 昭和39(オ)1487 / 裁判年月日: 昭和41年9月22日 / 結論: 破棄差戻
停止条件付代物弁済契約は、弁済期日に債務不履行のあつた場合に当初の債務全額の弁済に代えて目的物の所有権を移転する趣旨と解すべきであり、債務の一部弁済があつた場合にも、その趣旨は異なるものでなく、その残債務の弁済に代えて目的物の所有権を移転する趣旨と解すべきではない。
あてはめ
本件約款は、外見上は付随的なものにすぎず、売買の目的達成に必要不可欠とまではいえない。しかし、割賦販売において売主が代金債権を確保するためには重要な意義を有する。Yは代金完済前であるにもかかわらず、約款に反して勝手に本登記手続を了し、工作物を築造した。このような行為は売主に対する背信行為であり、契約の目的達成に重大な影響を及ぼす。したがって、本件約款上の義務は契約の要素たる債務に該当し、その不履行は正当な解除事由となる。
結論
Xによる売買契約の解除は有効である。付随的義務にみえる約款であっても、担保的機能を有するなど重要な意義を持つ場合は、その違反を理由に契約を解除できる。
実務上の射程
主たる債務以外の付随的義務の違反による解除の可否が問われる場面で活用する。単なる形式的な違反ではなく、その義務が契約の目的達成(特に代金確保や信頼関係の維持)にとって実質的に重要であるかを「要素たる債務」の認定として論じる際に有用な規範である。
事件番号: 昭和39(オ)231 / 裁判年月日: 昭和40年2月23日 / 結論: 棄却
処分禁止の仮処分の登記後に仮処分債務者から第三者に対し所有権の移転登記がされた場合において、仮処分債権者は、債務者との本案訴訟において実体法上の権利の存することを確定しないかぎり、単に仮処分債権者たる地位に基づいて、右第三者に対し、右実体法上の権利を主張して、前記所有権の移転登記の抹消登記を請求することはできない。
事件番号: 昭和29(オ)234 / 裁判年月日: 昭和33年2月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務者が支払の確実な小切手を提供し、債権者が従来同様の支払を異議なく受領していた事情がある場合、その提供は信義則上、現金の提供と同一視され適法な弁済の提供となる。また、売買目的物の範囲に一部誤認があったとしても、それが土地の特定の範囲の問題に過ぎない場合は、契約全体の要素の錯誤(民法95条)には当…
事件番号: 昭和31(オ)678 / 裁判年月日: 昭和32年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約において代金支払債務を所有権移転登記手続に先行させる旨の特約がある場合には、両債務間に同時履行の関係は成立せず、特約に従った履行遅滞による解除権の行使も信義則に反しない。 第1 事案の概要:被上告人(売主)と上告人(買主)との間の不動産売買契約において、代金債務の履行期を所有権移転登記手続…
事件番号: 昭和24(オ)209 / 裁判年月日: 昭和26年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律行為の要素に錯誤があるというためには、意思表示の時点において当該事情が契約の必須の要件とされている必要がある。契約成立後に生じた事情や合意は、特段の事情がない限り、契約締結時における意思表示の要素の錯誤を構成しない。 第1 事案の概要:上告人(売主)は本件家屋の売買契約を締結したが、後に「期限…