特許庁が、実用新案登録無効審判において提出された公知刊行物の記載によつては旧実用新案法(大正一〇年法律第九七号)第一条の考案を構成しないものとすることはできないと判断して、請求が成り立たない旨の審決をした場合であつても、右審決の取消訴訟において、当事者は、審決の判断を受けていない新たな公知刊行物に基づいて当該実用新案を無効と主張することを妨げない。
実用新案登録無効審判の審決取消訴訟において審決で判断されていない新たな公知刊行物に基づいて実用新案の登録無効を主張することの許否
旧実用新案法(大正10年法律第97号)1条,旧実用新案法(大正10年法律第97号)3条,実用新案法47条
判旨
実用新案登録無効審判の審決取消訴訟において、審判で争われた特定の登録無効事由に関する限り、審理の範囲は審決が基礎とした事項に限定されず、審判で提出されなかった新たな主張立証を許容すべきである。
問題の所在(論点)
審決取消訴訟において、審判手続で提出・検討されなかった新たな証拠や主張を提出して審決の違法性を争うことができるか。特に、同一の登録無効事由(法条違反)の枠内において、根拠となる資料を追加することの可否が問題となる。
規範
審決取消訴訟(旧実用新案法47条)の本質は行政処分の取消訴訟であり、審決の認定判断が訴訟の結果判明した事実に照らして維持できない場合は取り消されるべきである。したがって、審理の範囲は審決が基礎とした特定事項やその判断過程に限定されるものではなく、特定の登録無効事由(法条違反)の存否という争点に関する限り、攻撃防御方法として審判に提出されなかった新たな主張立証をなすことが許される。
重要事実
上告人は、被上告人の実用新案登録に対し、特定の公報(甲1号証・3号証)に基づき新規性欠如等の無効事由を主張して無効審判を請求したが、特許庁は請求不成立の審決をした。上告人は審決取消訴訟の原審において、新たに別の公知刊行物(甲2号証)を提出し、これら複数の刊行物から当業者が容易に推考できた旨を主張したが、原審は審判で提出されなかった新証拠を引用して審決の取消理由とすることは許されないとして、これを排斥した。
事件番号: 昭和43(行ツ)99 / 裁判年月日: 昭和45年10月30日 / 結論: 棄却
旧特許法施行規則(大正一〇年農商務省令第三三号)四一条は、旧特許法(同年法律第九六号)六条に違反しない。
あてはめ
本件では、審判手続以来「旧実用新案法1条違反」という特定の登録無効事由の存否が争われている。原審において上告人が提出した甲2号証は、この登録無効事由の存否を裏付けるための攻撃防御方法の追加にすぎない。一般の行政処分取消訴訟と同様、処分要件(登録無効事由)の欠如が判明した場合には処分を取り消すべきであり、審判で顕出された事項に限定して審理を行うべき理由はない。したがって、甲2号証に基づき審決の判断の過誤を主張することは許容されるべきである。
結論
審理の範囲を審決の基礎とした特定事項に限定し、新たな主張立証を許さないとした原判決には法令の解釈に誤りがある。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
行政事件訴訟法上の「審理の範囲」に関する重要判例。特許・実用新案の審決取消訴訟において、同一の「無効原因(条文単位)」の中であれば、審判で出なかった新証拠の提出は原則として自由であるとする(いわゆる「証拠無制限主義」)。ただし、全く別個の条文に基づく無効事由の追加は許されないとする「争点(事由)限定説」の枠組みを前提としている点に注意が必要である。
事件番号: 昭和54(行ツ)2 / 裁判年月日: 昭和55年1月24日 / 結論: 棄却
実用新案登録無効の審決取消訴訟において、審判の手続で審理判断されていた刊行物記載の考案のもり意義を明らかにするため、審判の手続に現れていなかつた資料に基づき当該実用新案登録出願当時における当業者の技術常識を認定することは許される。
事件番号: 昭和45(行ツ)32 / 裁判年月日: 昭和51年5月6日
【結論(判旨の要点)】特許無効審判の請求を退けた審決の取消訴訟において、原告は、審判手続で審理判断されていない新たな無効理由を審決取消事由として主張することは許されない。 第1 事案の概要:特許無効審判において、請求人は特定の引用文献に基づく新規性・進歩性欠如を主張したが、特許庁はこれを認めず審判請求を棄却する審決を下…
事件番号: 昭和33(オ)567 / 裁判年月日: 昭和35年12月20日 / 結論: 棄却
一 商標無効審判抗告審判の審決後の事実であつても、商標の無効かどうかの判断の資料になり得るものは、審決に対する訴訟の裁判で判断の資料にならないものではない。 二 商標法による審決に対する訴訟で、当事者は、審判における争点について、審判に際し主張しなかつた新たな事実を主張することができる。 三 旧商標法(大正10年法律第…
事件番号: 昭和28(オ)512 / 裁判年月日: 昭和30年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実用新案法(旧法)に基づく登録対象となるためには、考案が同法1条にいう「新規ノ型ノ工業的考案」に該当することを要し、新規性を欠く考案については登録を受けることができない。 第1 事案の概要:上告人は、自らの考案について実用新案法に基づく登録を求めた。しかし、原審において、当該考案は同法1条に規定さ…