一 約束手形の満期の記載が変造された場合には、変造前の文言については、手形所持人が立証責任を負う。 二 約束手形の金額欄の白地の補充について、第三者が、補充権に関する合意に反することを知り、または重過失により知らないで、右白地を補充したこと、または右合意に反して補充された手形を取得したことの立証責任は、振出人が負う。
一 約束手形の満期の記載が変造された場合と変造前の文言の立証責任 二 手形金額の白地補充権の濫用と悪意重過失についての立証責任
手形法77条1項7号,手形法77条2項,手形法69条,手形法10条
判旨
手形の支払期日が変造された場合、原文言の立証責任は所持人が負い、立証不能の不利益も所持人に帰せられる。他方、白地手形の補充権限逸脱について、悪意・重過失の取得者に対し振出人が合意の限度でのみ責任を負うと主張する場合、その補充限度の立証責任は振出人が負う。
問題の所在(論点)
手形の支払期日が変造された場合において、変造前の原文言の立証責任はどちらが負うか。また、補充権限を逸脱した補充がなされた場合において、補充限度の立証責任はどちらが負うか。
規範
1. 支払期日の変造(手形法69条)に関し、振出人は原文言に従ってのみ責任を負うため、原文言の主張・立証責任は手形所持人が負い、原文言が不明な不利益も所持人が負担する。 2. 白地補充権の逸脱(手形法10条)に関し、補充権の合意に違反したことを知り又は重過失により知らずに手形を取得した者が合意違反の補充をした場合、振出人は合意された金額の限度で責任を負う。この例外的な責任制限を主張する振出人は、補充の限度(合意の内容)について立証責任を負い、補充限度が不明な不利益も振出人が負担する。
重要事実
振出人Aは、支払期日と金額を異にする3通の約束手形(期日は昭和34年3月7日、12日、4月26日のいずれか。金額の合意は16万4200円、12万5300円、25万円のいずれか)を振り出した。所持人Bは、これら3通のうちいずれか1通につき、支払期日を同年2月25日に変造し、金額を71万6514円と補充した。BはAに対し手形金の支払を請求したが、変造前の本来の支払期日、および補充権の限度額が、3通のうちのいずれであるかが特定できなかった。
あてはめ
1. 支払期日について:変造後の文言でなく原文言により責任を負うのは手形法上の原則であるから、Bは原文言を立証すべきである。本件では原文言が3つの候補のいずれか不明であるため、Bに不利益を帰し、Bにとって最も遅い支払期日である昭和34年4月26日を基準とすべきである。 2. 金額の補充について:所持人が悪意等である場合、振出人は補充合意の限度で責任を免れるという抗弁をなし得るが、その限度額を証明できない不利益は抗弁の成立を主張するAが負うべきである。したがって、Aにとって最も不利な(高い)金額である25万円を限度としてAは責任を負う。
結論
支払期日については所持人Bに立証責任があり、不明な場合はBに不利な期日が基準となる。金額の補充限度については振出人Aに立証責任があり、不明な場合はAに不利な金額が基準となる。Aは25万円及び昭和34年4月27日以降の遅延損害金の支払義務を負う。
実務上の射程
変造と白地補充の立証責任を峻別した重要判例である。答案上は、変造(69条)は「所持人側」が原文言を立証し、白地補充の抗弁(10条)は「振出人側」が合意内容を立証するという整理を用いる。本件のように複数の候補がある場合、立証責任を負う側に最も不利益な事実を基礎とする処理は、実務上の合理的な解決策として引用価値が高い。
事件番号: 昭和39(オ)860 / 裁判年月日: 昭和42年3月28日 / 結論: 棄却
一 約束手形が書替えられた場合において、旧手形に基づく債務が消滅しないときは、手形の所持人は、新旧いずれの手形によつても手形上の権利を行使することができる。 二 約束手形の書替をした者が、新旧いずれか一方の手形による手形金請求を受けた場合には、右手形振出人は、新旧両手形をともに返還すべきことを請求することができる。