一 自作農創設特別措置法による未墾地買収令書の交付に代わる公告において、地番の誤記等判示の事情があるため被買収地の表示が第三者の所有地を表示したものとみられ、それが容易に認識できる単純な地番を誤記とはいえないときは、右公告による買収処分は重大かつ明白な瑕疵を有し無効と解するのが相当である。 二 知事が所有者の開墾中の土地に対して違法に立入禁止を行つてその開墾を妨げ、同地を未墾地として買収処分をした場合に、もし右立入禁止措置がなかつたとしたならば、その買収計画樹立当時すでに同地が明らかに農地となつていたものと認められるときは、右買収処分は無効と解するのを相当とする。
一 未墾地買収令書の交付に代わる公告における被買収地の表示の誤記のため当該買収処分が無効とされた事例。 二 開墾中の土地に対する違法な立入禁止措置があつた場合において右土地に対する未墾地買収処分が無効とされた事例。
自作農創設特別措置法30条,自作農創設特別措置法31条,自作農創設特別措置法34条,自作農創設特別措置法9条
判旨
行政処分における目的物の地番表示の誤りが、単なる誤記と容易に認識できず、対象の誤認を招く重大なものである場合、当該処分は当然無効となる。また、行政庁が自ら違法な作為により作出した状態を利用してなされた処分も、法の趣旨に反し無効である。
問題の所在(論点)
未墾地買収処分において、公告上の地番表示の誤りが「重大かつ明白な瑕疵」として処分の無効原因となるか。また、行政庁が自ら違法な処分(立入禁止)によって作り出した未墾地状態を前提に買収処分を行うことは許されるか。
規範
行政処分の瑕疵が「重大かつ明白」である場合には、当該処分は当然無効となる。処分の客体である土地の表示に誤りがある場合、それが単なる表示の誤記にすぎないと容易に認識しうる程度のものを超え、処分の対象を誤ったと認められるときは、重大な瑕疵にあたる。また、行政庁が自ら違法に作出した状態を利用して、その状態の存在を要件として行う処分は、法の趣旨に照らし許容されない。
事件番号: 昭和37(オ)1389 / 裁判年月日: 昭和38年11月1日 / 結論: 棄却
一 農地買収処分の前提としての調査が十分になされたかどうかは、当該処分の有効無効に関係しない(昭和三六年三月七日第三小法廷判決、民集一五巻三号三八一頁)。 二 共有にかかる農地を単独所有であるとして為した買収処分の違法は、その誤認が原審判示のように無理からぬ事情のもとでなされた以上、重大かつ明白な瑕疵ということはできず…
重要事実
北海道農地委員会は、本件土地(c番地)につき未墾地買収計画を立てたが、買収令書の交付に代わる公告において、誤って他人の所有地である「d番地」と表示した。また、処分庁は事前に本件土地への立入禁止処分を違法に行い、被上告人による開墾作業を妨げ、本来農地化されていたはずの本件土地を未墾地の状態に留め置いた上で、未墾地買収処分を行った。被上告人は公告の誤記を知り得た状況にあったが、処分の無効を主張した。
あてはめ
地番の不一致は対物的処分の客体の相違そのものであり、本件では買収計画の策定過程で誤謬が繰り返されている。そのため、単なる事務上の不手際や誤記と容易に認識することはできず、客体の誤認という重大な瑕疵があるといえる。相手方が誤記を察知できたとしても、処分庁が一方的な過誤を放置した以上、瑕疵の重大性は左右されない。さらに、違法な立入禁止がなければ農地化されていたはずの土地を、あえて「未墾地」として買収することは、法の趣旨に適合しない著しい違法があり、無効を免れない。
結論
本件買収処分には重大かつ明白な瑕疵があり、当然無効である。よって、上告を棄却する。
実務上の射程
行政処分の無効原因となる「重大かつ明白な瑕疵」のうち、客体の特定に関する判断基準を示したものとして重要である。また、信義則や権利濫用に近い法理として、行政庁の自作自演的な処分要件の充足(違法な状態創出)が処分の無効を導くことを認めており、行政過程の正当性を争う際の有力な論拠となる。
事件番号: 昭和39(行ツ)104 / 裁判年月日: 昭和42年6月20日 / 結論: 棄却
自作農創設特別措置法第三条第一項第三号の超過面積算定の基礎となるべき小作地は、地主がその住所のある市町村の区域内において所有する小作地にのみ限られ、隣接市町村の区域内において所有する小作地はこれに含まれない。
事件番号: 昭和36(オ)1320 / 裁判年月日: 昭和38年12月26日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】行政処分が当然無効となるための「瑕疵の明白性」は、処分の外形上客観的に、誤認が一見して看取できるか否かにより決すべきであり、行政庁の調査怠慢の有無は直接関係しない。 第1 事案の概要:行政庁が、被上告人の自作地である農地を小作地であると誤認し、農地買収処分を行った事案。原審は、本件農地が実際には自…
事件番号: 昭和28(オ)608 / 裁判年月日: 昭和30年4月26日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】真実の所有者でない者を対象とした農地買収処分は、違法ではあるが当然無効とはならない。真実の所有者が処分を知り得たのに不服申立期間を徒過した場合は、もはや訴訟でその違法を主張することは許されない。 第1 事案の概要:本件農地は、贈与により真実の所有者となった被上告人が占有・管理していたが、未登記のた…
事件番号: 昭和38(オ)348 / 裁判年月日: 昭和39年7月7日 / 結論: 棄却
行政処分の無効を主張するについては、当該行政処分に重大かつ明白な瑕疵があることを具体的事実に基づいて主張すべきである。