一 家屋賃貸借における賃料の取立債務の約定は、賃借人と前賃貸人との間の特殊事情に基づいて成立したものであつても、新所有者たる賃貸人に承継される。 二 賃貸人が適正賃料である月三、九八九円を一、〇一一円しかこれない賃料月五、〇〇〇円の割合による賃料債務の支払を催告した場合であつても、賃貸人が右催告金額以下の金員ではこれを受領しないことが明確であるときには、右催告は、その効力を生じない。
一 家屋賃貸借における賃料の取立債務の約定と新所有者たる賃貸人による承継の有無。 二 催告金額以下の金額では賃貸人において受領しないことが明確であることを理由として催告が効力を生じないとされた事例。
民法600条,民法614条,民法541条,借家法1条
判旨
賃貸人の地位を承継した者は、特約等により取立債務とされていた賃料支払態様をそのまま承継し、また、大幅な値上げを固執して提供を受けても受領しない態度を示す者による過大な催告は、適法な催告としての効力を有しない。
問題の所在(論点)
賃貸人の地位の承継に伴い、賃料の取立債務が当然に持参債務に変更されるか。また、本来の債務額を超える過大な催告に基づき、民法541条(旧法下)の解除の効力が認められるか。
規範
不動産の所有者が賃貸人の地位を承継した場合、従前の賃貸借の内容をそのまま承継するため、賃料支払が取立債務である旨の合意も承継される。また、賃貸借契約を解除するための催告が、本来の債務額を著しく超える過大なものであり、かつ、債権者が本来の債務額の提供があっても受領しない意思が客観的に明らかな場合には、その催告は不適法であり、解除の効力を生じない。
重要事実
建物の新所有者(上告人)が賃貸人の地位を承継した。前賃貸人と賃借人との間には、賃料支払を「取立債務」とする合意が存在したが、上告人は承継により「持参債務」に変更されたと主張した。また、上告人は賃料を月額5,000円に値上げすることを固執し、本来の適正額(3,989円)を上回る額での支払催告を行った。その際、上告人は5,000円以下の金額では合意に応じず、弁済の提供を受けても受領しないような態度を示していた。
あてはめ
賃貸人の地位の承継は賃貸借契約の同一性を維持したまま行われるため、取立債務という特約も承継される。本件において、上告人は賃料値上げを一方的に固執し、本来の賃料額の提供があっても受領しない態度を明確にしていたといえる。そうであるならば、上告人のした月額5,000円の割合による過大な催告は、信義則に照らし、あるいは催告の本旨に反するものとして適法な催告とは評価できない。したがって、これに基づく解除権の行使は認められない。
結論
上告人の解除は無効である。賃料支払が取立債務である以上、賃貸人が取り立てに来ない限り遅滞は生じず、また過大な催告による解除も効力を生じないため、上告を棄却する。
実務上の射程
賃貸借の承継における債務態様の維持と、過大な催告の限界事例(受領拒絶の意思が明確な場合)を示す。実務上は、過大な催告であっても同一性があれば有効とされるのが原則だが、本判例は「それ以下の金額では受領しない」という強固な態度がある場合には無効となる例外的な射程を示すものとして活用できる。
事件番号: 昭和34(オ)416 / 裁判年月日: 昭和37年3月9日 / 結論: 破棄差戻
延滞賃料額七、三五三円に対しこれを二九、九三〇円としてなした催告の無効をいうためには、右催告にあたり、催告額全額の提供を得なければ債権者がその受領を拒絶する意思を有したことの認定判示が必要であり、前示過大の程度のみでは、いまだ右受領拒絶の意思を推認することはできないから、右認定判示をしない点に理由不備がある。