一 加害者である第三者が被災労働者に支払つた慰藉料は、使用者が労働基準法に基づいて被災労働者に支払うべき災害補償の額に影響を及ぼさない。 二 労働基準法第七五条に基づく使用者の療養補償債務は、少なくとも、当該補償の事由が生じた月の末日の経過とともに履行遅滞となるものと解すべきである。 三 労働基準法第七六条に基づく使用者の休業補償債務は、少なくとも、当該休業期間の属する月の末日の経過とともに履行遅滞となるものと解すべきである。
一 労働基準法に基づく災害補償と慰藉料との関係 二 労働基準法第七五条の療養補償債務の履行遅滞となる時期 三 労働基準法第七六条の休業補償債務の履行遅滞となる時期
労働基準法84条2項,労働基準法75条,労働基準法76条,労働基準法施行規則39条,民法711条,民法412条
判旨
労働基準法上の災害補償は財産上の損害填補を目的とするため、第三者から受領した慰謝料を控除することはできない。また、打切補償は使用者の意思表示を要件とするものであり、労働者から当然に請求することはできない。
問題の所在(論点)
1. 第三者から支払われた慰謝料を、使用者が支払うべき労働基準法上の災害補償額から控除できるか。 2. 療養補償および休業補償の履行期はいつか。 3. 打切補償につき、使用者の意思表示がない場合でも労働者から請求できるか。
規範
1. 災害補償と慰謝料の調整:労働基準法に基づく災害補償は、労働者の財産上の損害填補を目的とするものであり、精神的損害の填補(慰謝料)を目的としない。したがって、第三者が支払った慰謝料は、使用者が支払うべき災害補償の額に影響を及ぼさない。 2. 災害補償の履行期:療養補償は事由発生月の末日、休業補償は通常の賃金支払日(少なくとも当該休業期間の属する月の末日)の経過とともに履行遅滞に陥る。 3. 打切補償の性質:労働基準法81条の打切補償は、療養開始後3年経過後に使用者の意思によって行われるものであり、使用者の意思表示がない限り、労働者から当然に請求しうるものではない。
重要事実
労働者である被上告人は、業務に関連する交通事故により負傷した。被上告人は加害者Dから示談金および調停に基づく金員を受領したが、その一部は慰謝料の性質を有するものであった。被上告人は使用者である上告人に対し、労働基準法に基づき療養補償、休業補償および打切補償を請求した。原審は、加害者から受領した慰謝料額を控除せずに補償請求を認め、さらに使用者の意思表示の有無を確定しないまま打切補償の請求を認容した。
あてはめ
1. 慰謝料の控除について:加害者Dから支払われた1万3000円は慰謝料の趣旨で受領されたものである。災害補償は財産的損害を対象とし、精神的損害を対象としないため、性質の異なる慰謝料を補償額から控除することはできない。 2. 履行期について:療養補償(3万4383円)および休業補償は、各事由発生月ないし休業期間の属する月の末日が経過した時点で遅滞に陥るため、訴状送達日の翌日からの遅延損害金請求は正当である。 3. 打切補償について:打切補償は使用者が療養開始後3年経過時に「打ち切る」という選択をすることを前提とする制度である。本件では上告人が打切補償を行う旨の意思表示をした事実が主張・立証されていないため、当然に請求権は発生しない。
結論
1. 慰謝料の控除および履行期に関する原判決は正当であり、上告を棄却する。 2. 打切補償に関する請求を認めた部分は、法律の解釈適用を誤っており破棄を免れない。ただし、休業補償請求の真意を確認するため、当該部分につき差し戻す。
実務上の射程
災害補償と損害賠償の調整において、費目(性質)の同一性が重要であることを示した。特に精神的損害(慰謝料)と労働基準法上の補償は別物として扱う実務慣行の基礎となる。また、打切補償の「使用者の権利」としての側面を強調しており、労働者側からの解雇制限解除を目的とした構成には慎重な検討を要することを意味する。
事件番号: 昭和50(オ)431 / 裁判年月日: 昭和52年5月27日 / 結論: 棄却
厚生年金保険法又は労働者災害補償保険法(昭和四八年法律第八五号による改正前のもの)に基づき政府が将来にわたり継続して保険金を給付することが確定していても、いまだ現実の給付がない以上、将来の給付額を受給権者の第三者に対する損害賠償債権額から控除することを要しない。