仮登記後の本登記を禁止したまたは仮登記の移転登記を禁止する仮処分は、登記簿に記入すべき事項ではない。
仮登記後の本登記禁止または仮登記の移転登記禁止の仮処分の登記簿記入の可否。
不動産登記法1条,民訴法758条
判旨
不動産に関する登記の申請そのものを禁止する命令は、実体法上の権利の処分を制限するものではなく、不動産登記法上の「処分の制限」には該当しない。したがって、かかる登記禁止の仮処分を登記簿に記入することはできない。
問題の所在(論点)
登記申請行為(登記そのもの)を禁止する仮処分命令は、不動産登記法に定める「不動産に関する権利の処分の制限」に該当し、登記簿に記入することができるか。
規範
不動産登記法上の「処分の制限」の登記(現行法3条5号、59条等)が認められるためには、対象となる処分が「不動産の譲渡、抵当権の設定その他の実体法上の処分」であることを要する。登記申請行為そのものを禁止する命令は、実体法上の処分を禁止するものではなく、特別の法令上の根拠がない限り、不動産登記の対象とはならない。
重要事実
上告人は、債務者に対して「本件仮登記に基づく本登記」および「仮登記の移転登記」を禁止する仮処分決定(以下「本件仮処分」)を得た。本件仮処分には「その他一切の処分を禁止する」との文言も含まれていたが、その実質的な内容は登記手続そのものの禁止を命ずるものであった。上告人は、民事訴訟法(当時)の規定に基づき、この登記禁止の仮処分を登記簿へ記入(嘱託)することを求めたが、登記官ないし原審により、登記できる事項ではないとして否定されたため上告した。
事件番号: 昭和33(オ)358 / 裁判年月日: 昭和35年7月14日 / 結論: 棄却
仮処分債務者甲所有の不動産につき仮処分債権者乙のためになされた処分禁止の仮処分登記後に甲から丙に所有権移転登記がなされた場合において、その後甲と乙との間に成立した甲から乙へ所有権移転登記をなすべき旨の調停調書に基き乙が所有権移転登記を申請するについては、右申請と同時に丙のための所有権移転登記の抹消を申請する場合にかぎり…
あてはめ
まず、登記申請行為は実体法上の不動産の処分とは解されない。登記の効力に鑑みても、手続上の行為である登記申請を禁止することが、直ちに実体的な権利変動を禁ずる「処分の制限」に当たると解することはできない。また、当時の民事訴訟法(現行民保法に相当)において「譲渡や抵当権設定を禁止したとき」に嘱託できる旨の規定はあったが、これは実体上の権利の処分禁止を指すものであり、仮登記に基づく本登記の禁止や仮登記の移転禁止といった「登記手続の禁止」までを登記簿に記入させる趣旨ではない。本件の「その他一切の処分」という文言も、その趣旨が登記手続のみを禁止するものである以上、登記事項としての適格性を備えない。
結論
登記申請行為そのものの禁止は、不動産登記法上の処分の制限に当たらないため、登記簿に記入することはできない。上告を棄却する。
実務上の射程
登記手続のみを差し止める仮処分(登記禁止の仮処分)には不動産登記法上の公示手段がなく、第三者に対抗できないことを示している。実務上、権利保全のためには「登記禁止」ではなく、実体的な処分権を制限する「処分禁止の仮処分」を選択すべきであるという射程を持つ。
事件番号: 昭和27(オ)305 / 裁判年月日: 昭和29年6月22日 / 結論: 棄却
買収前の農地所有者が農地買収計画取消の訴訟を提起し、右計画の執行停止決定を得たとしても、買収後の売渡処分によつて右農地の所有権を取得したと主張するものが、その権利保全のためにした仮処分はその理由を失つたものということはできない。