仮処分債務者甲所有の不動産につき仮処分債権者乙のためになされた処分禁止の仮処分登記後に甲から丙に所有権移転登記がなされた場合において、その後甲と乙との間に成立した甲から乙へ所有権移転登記をなすべき旨の調停調書に基き乙が所有権移転登記を申請するについては、右申請と同時に丙のための所有権移転登記の抹消を申請する場合にかぎり、丙の承諾書またはこれに対抗し得べき裁判の謄本を添付することなく、乙単独で右移転登記の抹消を申請することができる。
抹消登記の申請を登記権利者単独でなし得るとされた事例。
不動産登記法(旧)26条,不動産登記法(旧)27条,不動産登記法(旧)146条
判旨
処分禁止の仮処分登記後にされた登記は、仮処分債権者と債務者との間で調停が成立した場合、債権者は後記登記名義人の承諾書等の添付がなくとも、調停調書正本を添付して当該後記登記の抹消を申請でき、登記官がこれを受理することは適法である。
問題の所在(論点)
処分禁止の仮処分登記後にされた登記を抹消する場合において、仮処分債権者が債務者との間の調停調書に基づき申請を行う際、不動産登記法上の原則である「第三者の承諾書」等の添付が必要か、また当該申請に基づく抹消登記は適法か。
規範
処分禁止の仮処分登記に遅れる所有権移転登記等は、仮処分の被保全権利が実現される限りにおいて仮処分債権者に対抗できない。この場合、仮処分債権者は、登記上の利害関係を有する第三者(後記登記名義人)の承諾書またはこれに対抗し得る裁判の謄本を添付することなく、債務者との間で成立した調停調書正本(確定判決と同一の効力を有するもの)のみを添付して、当該後記登記の抹消を申請することができる。
重要事実
本件土地家屋につき、まず訴外Dを債権者、Eを債務者とする処分禁止の仮処分登記がなされた。その後、上告人のために同土地の所有権移転請求権保全仮登記および本件土地家屋の所有権移転登記がなされた。その後、仮処分債権者Dと債務者Eとの間で調停が成立したため、Dは上告人の承諾書等を添付することなく調停調書正本を添付して上告人の登記の抹消を申請し、登記官がこれを受理して抹消登記を行った。
あてはめ
上告人による登記は、それに先立ってなされたDのための処分禁止の仮処分登記に対抗できない。Dと債務者Eとの間で調停が成立した以上、Dの被保全権利が認められたものといえ、仮処分の効力として上告人の登記は抹消されるべき筋合いにある。このとき、調停調書は確定判決と同様の効力を有するため、これをもって登記申請を行う場合には、実質的に対抗できない立場にある上告人の個別の承諾書を重ねて要求する必要はない。したがって、登記官が調停調書のみに基づき抹消登記を行ったことに違法はない。
結論
処分禁止の仮処分に抵触する後記登記の抹消申請において、仮処分債権者は調停調書正本を添付すれば足り、後記登記名義人の承諾書等は不要である。これを受理した登記官の処分は適法である。
実務上の射程
仮処分債権者が本案訴訟で勝訴した場合だけでなく、調停や和解によって解決した場合でも、後記登記を単独申請(実務上は現行法に準じた手続)により抹消できる可能性を認めた点に実務上の意義がある。答案上は、仮処分の効力(対抗不能)と登記手続の簡略化の文脈で使用する。
事件番号: 昭和37(オ)905 / 裁判年月日: 昭和38年12月3日 / 結論: 棄却
仮登記後の本登記を禁止したまたは仮登記の移転登記を禁止する仮処分は、登記簿に記入すべき事項ではない。
事件番号: 昭和39(オ)231 / 裁判年月日: 昭和40年2月23日 / 結論: 棄却
処分禁止の仮処分の登記後に仮処分債務者から第三者に対し所有権の移転登記がされた場合において、仮処分債権者は、債務者との本案訴訟において実体法上の権利の存することを確定しないかぎり、単に仮処分債権者たる地位に基づいて、右第三者に対し、右実体法上の権利を主張して、前記所有権の移転登記の抹消登記を請求することはできない。
事件番号: 昭和34(オ)671 / 裁判年月日: 昭和37年3月23日 / 結論: 棄却
登記官吏の過誤によつて抹消された処分禁止の仮処分登記は、右抹消後回復登記前の登記簿上の所有権取得者に対して効力を有する。