売主およびその相続人たるべき者の共有不動産が売買の目的とされた場合において、売主が死亡し、相続人が限定承認をしなかつたときは、相続人は当該売買契約成立当時右不動産に持分を有していたからといつて、その持分についても、右売買契約における売主の義務の履行を拒みえない。
売主およびその相続人の共有不動産が売買の目的とされた場合当該相続人は当該売買契約における売主の義務の履行を拒みうるか。
民法563条,民法560条,民法920条
判旨
被相続人が自己及び相続人の共有不動産を売却した後に死亡し、相続人が限定承認をせずに相続した場合、相続人は自身の固有持分についても売主としての義務履行を拒むことはできない。
問題の所在(論点)
他人物売買の売主を相続した者が、当該物件について自身の固有持分を有していた場合、当該持分について売主としての移転登記義務を拒絶できるか。相続による義務承継と固有の権利の優劣が問題となる。
規範
売主の地位と物件の所有権が同一人に帰属するに至った場合、売主は当初から自己所有の物件を売買した場合と同様の地位に立ち、物件の移転を拒むことはできない。また、相続人が限定承認をしない限り、被相続人の権利義務を無限に承継するため、買主が共有者の存在を知っていたか否かにかかわらず、相続人は自己の固有持分について売主としての義務履行を拒否し得ない。
重要事実
訴外Dは、Dが3分の1、上告人(Dの子)が3分の2の持分を有する本件建物を被上告人に売り渡した(他人物売買を含む)。その後、売主Dが死亡し、唯一の相続人である上告人が本件相続について限定承認をしなかった。買主である被上告人が、上告人に対し、本件建物全体の所有権移転登記手続を求めたところ、上告人は自己の固有持分(3分の2)については義務を負わないと主張した。
事件番号: 昭和37(オ)1437 / 裁判年月日: 昭和39年7月28日 / 結論: 棄却
不動産の買主に代位し、その売主の相続人に対し、売買を原因として、当該不動産について所有権移転登記を求める訴訟は、その相続人が一人でない場合においても、必要的共同訴訟ではない。
あてはめ
上告人は、Dの死亡によりその権利義務を包括的に承継しており、売主としての地位を承継している。限定承認をしていない以上、Dが負っていた「建物全体の所有権を移転する義務」を無限に承継する。この場合、売主の地位(承継した義務)と物件の持分権(固有の権利)が同一人である上告人に帰属することになり、上告人は自己の持分を自ら処分できる地位にある。したがって、他人物売買における「目的物を取得して移転する義務」は履行不能とはならず、自己の持分であることを理由に移転を拒むことは信義則ないし相続の性質上許されない。
結論
上告人は被上告人に対し、自己の固有持分を含む本件建物全部について所有権移転登記手続をする義務を負い、その履行を拒めない。
実務上の射程
他人物売買の売主を相続した場合の標準的な規範である。無権代理の相続(資格融合説)と類似の論理構造を持つが、本判決は代理権の問題ではなく債権法上の義務承継として整理している点に注意。共有不動産の一部他人物売買において、相続によって「履行不能」が解消される場面で活用する。
事件番号: 昭和33(オ)517 / 裁判年月日: 昭和36年12月15日 / 結論: 棄却
不動産の買主が、その売主の相続人に対し、売買を原因として、当該不動産について所有権移転登記を求める訴訟は、その相続人が数人いるときでも、必要的共同訴訟ではない。
事件番号: 昭和42(オ)30 / 裁判年月日: 昭和43年4月4日 / 結論: 棄却
共有者の一人が、権限なく、共有物を自己の単独所有に属するものとして他に売り渡した場合でも、売買契約は有効に成立し、自己の持分をこえる部分については、他人の権利の売買としての法律関係を生ずるとともに、自己の持分の範囲内においては、約旨に従つた履行義務を負う。
事件番号: 昭和35(オ)3 / 裁判年月日: 昭和37年4月20日 / 結論: 破棄差戻
本人が無権代理人の家督を相続した場合、被相続人の無権代理行為は、右相続により当然には有効となるものではない。
事件番号: 昭和40(オ)353 / 裁判年月日: 昭和44年12月18日 / 結論: 破棄差戻
不動産を買い受け所有権に基づいてこれを占有する買主は、売主との関係においても、自己の占有を理由として右不動産につき時効による所有権の取得を主張することができる。