債務者が賃料を持参して債権者の代理人である弁護士の事務所に赴いたが、当該弁護士が不在のため、現金の呈示ができない場合には、特段の事情のないかぎり、右弁護士の事務員に対しその受領の催告をしなくても、弁済のための現実の提供があつたものと解すべきである。
受領の催告をしなくても弁済のための現実の提供があるとされた事例。
民法493条
判旨
債務者が債権者の代理人である弁護士の事務所に弁済金を持参した場合には、債務の本旨に従った弁済の提供(民法493条)が認められ、また特段の事由がある場合には受領の催告を要しない。
問題の所在(論点)
債権者の代理人事務所への持参が、民法493条にいう「債務の本旨に従つた現実の提供」にあたるか。また、口頭の提供等において受領の催告を省略できる「特段の事由」が認められるか。
規範
債務の本旨に従った弁済の提供(民法493条)とは、特段の合意がない限り、債務者が債権者の住所(又はこれに準ずる場所)において現実に提供することを要する。また、債権者側に受領を期待できないような特段の事由がある場合には、口頭の提供における受領の催告をせずとも、提供の効力を生じ得る。
重要事実
債務者(被上告人)は、昭和31年12月10日、債権者(上告人)の代理人である坂井弁護士の事務所に対し、債務額に相当する7,875円を持参した。これに対し、債権者側は当該提供を債務の本旨に従ったものとは認めず、弁済の効力および受領催告の要否を争って上告した。
あてはめ
被上告人が債権者代理人の事務所に弁済金を持参した事実は、債務の履行に向けられた正当な行為であり、債権者の受領可能な状態を作り出したといえる。さらに、原判決が認定した事実関係(詳細は判決文からは不明だが「特段の事由」とされる事情)に基づけば、あえて受領の催告を行うまでもなく、適法な提供があったと評価するのが相当である。
結論
債務者の行為は債務の本旨に従った弁済の提供にあたり、受領の催告を要しない特段の事由も認められるため、弁済の提供の効力が生じる。
実務上の射程
現実の提供の場所として債権者代理人の事務所が有効であること、および口頭の提供の変容形態として受領催告が不要となる「特段の事由」の存在を肯定する際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和26(オ)411 / 裁判年月日: 昭和29年2月11日 / 結論: 棄却
債権者に対し供託受領証書を交付することは弁済供託の有効要件ではなく、弁済の効力は供託によつて生ずると解するのが相当である。
事件番号: 昭和38(オ)1396 / 裁判年月日: 昭和39年7月16日 / 結論: 棄却
原審確定の事実関係のもとでは、約束手形を延滞賃料の支払として譲渡すべく提供したことが、金銭債務の履行として債務の本旨に従った弁済の提供があったものとは解せられない。