債権者が譲渡担保ならびに代物弁済契約に基づいて債務者から立木の所有権を取得したことを理由に右立木につき伐採搬出を許す旨の仮処分命令を得て、これを伐採搬出したが、右契約が臨時物資需給調整法に基づく木炭需給調整規則(昭和二四年農林省令第七四号)に違反する木炭出荷義務を担保するためになされたために無効であり、したがつて、債権者が右立木の所有権の取得し得ないとされた場合であつても、右契約締結が債務者の懇請によりその窮状を救うためになされたものであり、また、債務者側に右契約に関し原判示の事情(原判決引用の一審判決理由参照)があるときは、債務者から債権者に対し右立木の不法伐採搬出を理由とする損害賠償を求めることは、権利の濫用にあたる。
立木の不法伐採搬出を理由とする損害賠償請求が権利の濫用にあたるとされた事例。
民法1条
判旨
契約が無効であり法的には依然として所有権を有する場合であっても、契約締結や交渉の経緯、相手方の行為に至った事情等に照らし、損害賠償を請求することが信義則に反し権利の濫用に当たると解される場合には、当該請求は認められない。
問題の所在(論点)
譲渡担保契約が無効であり、形式上の所有権が依然として上告人に帰属している場合において、当該立木を伐採した相手方に対する損害賠償請求が権利の濫用として否定されるか。
規範
形式上の権利が認められる場合であっても、契約締結の経緯、履行をめぐる当事者間の交渉経過、および相手方が侵害行為に及ぶに至った諸事情を総合考慮し、権利の行使が信義誠実の原則(民法1条2項)に反し、権利の濫用(同条3項)と認められる場合には、その行使は許されない。
重要事実
上告人と被上告人の先代Dとの間で消費貸借契約が締結され、その担保として本件立木の譲渡担保および代物弁済契約がなされた。しかし、当該譲渡担保等の契約は法的に無効であったため、形式上の所有権は上告人に留まっていた。その後、被上告人が本件立木の伐採・製炭を行ったことに対し、上告人は所有権侵害を理由として損害賠償を請求した。
事件番号: 昭和37(オ)536 / 裁判年月日: 昭和40年12月21日 / 結論: 棄却
臨時物資需給調整法に基づく木炭需給調整規則(昭和二四年農林省令第七四号)施行当時、木炭の生産者が同規則第二条、第一四条に違反して集荷業者でない者との間に締結した木炭譲渡契約は、私法上その効力を有しないものと解すべきである。
あてはめ
本件における譲渡担保契約等の締結経緯や、その後の契約履行をめぐる当事者間の具体的な交渉経過、さらには被上告人が立木の伐採・製炭を行うに至った事情を勘案する。形式上は上告人が所有権を保有しているとしても、これらの事実関係のもとでは、侵害を理由とした損害賠償の請求は信義誠実の原則に照らして著しく正当性を欠くものであり、権利の濫用に該当すると評価される。
結論
本件損害賠償請求は、信義則に違反し権利の濫用に当たるため、棄却されるべきである。
実務上の射程
契約が無効であっても、信義則・権利濫用の法理によって実質的な結論の妥当性を図る判例である。答案上は、物権的請求や損害賠償請求の場面で、形式的な権利帰属が認められる場合の「最後の抗弁」として、具体的な交渉経過や帰責性を指摘しつつ本枠組みを用いる。
事件番号: 昭和45(オ)998 / 裁判年月日: 昭和47年12月22日 / 結論: 棄却
本件「伐採搬出期間内に伐採搬出が終わらないときは売買契約は自動的に解除となり生立する立木および伐採木は売主の所有に帰属する」との約定は、残存立木および伐採木が売主の所有となる旨を定めたにとどまり、全く伐採がなされなかつた場合でも、契約を遡及的に消滅させる趣旨ではないと解すべきである。
事件番号: 昭和28(オ)538 / 裁判年月日: 昭和29年11月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法行為等に基づく損害賠償請求において、過失相殺(民法722条2項)の主張は事実審において主張されない限り、上告審でこれを採用することはできない。 第1 事案の概要:上告人(被告)は、被上告人(原告)の損害が被上告人の過失に基づくと主張し、民法722条2項の適用があるべきだと上告理由で述べた。しか…