町条例に、競争入札以外の方法による町有不動産の売却が予定価格二〇万円未満のものまたは予定価格二〇万円以上五〇万円未満で急施を要するものについてなされるときには、町議会の議決を要せず、町長において町を代表して私法上の売買契約を締結できる権限がある旨規定されている場合は、同町長の右制限をこえる町有不動産売却行為について、右代表権限を基本権限として、民法第一一〇条を類推適用することができる。
条例に規定された町長の私法上の代表権限が民法第一一〇条の基本権限とされた事例。
地方自治法147条,民法110条
判旨
普通地方公共団体の長が議会の議決を欠くなど代表権限を逸脱して契約を締結した場合であっても、相手方がその権限があると信ずべき正当な理由があるときは、民法110条が類推適用される。
問題の所在(論点)
普通地方公共団体の長が、議会の議決を要する契約を議決なしに締結した場合、民法110条(権限外の行為の表見代理)が類推適用され、契約の効力が自治体に帰属し得るか。
規範
普通地方公共団体の長の代表権限は法律や条例によって定められているが、その権限を踰越した行為については、取引の安全を保護する観点から、民法110条の表見代理の規定を類推適用し得る。この場合、長に一定の範囲で私法上の契約を締結する基本権限が認められ、かつ、相手方において長に当該権限があると信ずべき「正当な理由」があることが必要である。
重要事実
B1町の町長Dは、町有不動産をB2に売却する契約を締結した。町の条例では、予定価格20万円以上の不動産売却には議会の議決が必要とされていたが、20万円未満の売却や急施を要する場合等は町長の執行権限とされていた。本件の売買契約は議会の議決を要する規模であったが、実際には議決を経ていなかった。町側は、町長の代表権限は法定されており、権限外の行為は無効であって表見代理の類推適用の余地はないと主張した。
事件番号: 昭和27(オ)201 / 裁判年月日: 昭和30年1月21日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】民法110条の権限外の表見代理が成立するためには、原則として、行為当時において基本代理権が存在することを要する。過去に存在した代理権が消滅した後に権限外の行為が行われた場合は、同条を直接適用することはできない。 第1 事案の概要:上告人の復代理人Eは、上告人のために封鎖預金の解除払戻に関する代理権…
あてはめ
まず、町長は条例上、予定価格20万円未満の不動産売却等については議会の議決なく契約を締結する権限を有しており、町を代表する「基本権限」が認められる。次に、本件売買契約の締結に際し、相手方であるB2において、町長に当該契約を締結する権限があると信ずべき「正当な理由」が存在したことが原審において適法に認定されている。したがって、表見代理の成立要件(類推適用)を満たすと解される。
結論
町長による代表権限踰越の行為についても民法110条の類推適用があり得るため、正当な理由がある本件契約は有効であり、上告を棄却する。
実務上の射程
地方自治体の長の権限外の行為について表見代理の成立を認めた重要判例。答案上は、相手方の信頼保護(取引の安全)と行政の適法性の調和として論じる。基本権限の有無については、本判決のように一部の権限が認められれば足りると解するのが一般的である。
事件番号: 昭和30(オ)262 / 裁判年月日: 昭和31年10月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代理人が真意では本人を代理する意思がない場合であっても、代理人が相手方との間で売買契約を締結する意図を有していたのであれば、心裡留保(民法93条)の規定を類推適用して、相手方が代理人の真意を知り又は知ることができた場合に限り、その行為は無効となる。 第1 事案の概要:売主Dの代理人であるE社の係員…
事件番号: 昭和32(オ)1102 / 裁判年月日: 昭和36年5月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の買受人は、売主が登記簿上の所有名義人であっても、当該売主が実体上の所有権を有しない場合には、善意・悪意を問わず、民法94条2項等の特別の規定がない限り、当該不動産の所有権を取得できない。 第1 事案の概要:上告人(買受人)は、本件建物の登記簿上の所有名義人である売主から建物を買い受けた。し…