一 不在事由として「出張」、「昼夜運転」、「冷凍魚荷役」、「出港のため」等記載されているに止まる不在証明書による不在者投票であつても、その土地の実情、習慣、選挙人の職業によつて不在事由が認められる以上、右不在者投票を必ずしも違法とはいえない。 二 違法な不在者投票があつた場合に、選挙の結果に異動を及ぼす虞があるかないかは、その数を当選人の得票数から差し引き、落選人の得票数と比較するだけで判断すべきである。 三 市の企画調査室長がその名義で作成した選挙事務従事のための不在証明書であつても、右室長が市職員の人事に関する事務を分掌しているものであつて、選挙に際し、市長の認容の下に選挙管理委員会と連絡の上作成したものである以上、右証明書を適法でないとはいえない。 四 選挙事務従事のための不在証明書の不在事由欄に、その従事する投票区の記載がなくても、証明書本文に選挙の当日投票できない旨の記載があるときは、不在者投票の事由の記載があるものと認めて支障はない。 五 会社名義の不在証明書も不適法とはいえない。 六 原判決が、疎明によつて不在者投票をした者について、選挙当日の不在事由及び証明書を提出できない事由を認定した上で、不在者投票当日、これらの者から疎明書を徴した事実によつてこれらの事由の疎明があつたと認定しても違法とはいえない。
一 不在事由とし「用務出張のため」等記載されているに止まる不在証明書により不在者投票をさせることの適否 二 違法な不在者投票があつた場合に選挙の結果に異動を及ぼす虞の有無を判断する基準 三 市の企画調査室長が作成した選挙事務のための不在証明書の適否 四 投票区の記載のない選挙事務のための不在証明書の適否 五 会社名義の不在証明書の適否 六 不在者投票をするについて疎明があつたと認められた事例
公職選挙法49条,公職選挙法205条1項,公職選挙法施行令52条,同法施行令52条
判旨
不在者投票における不在事由の証明書に記載不備があっても、土地の実情や職業等から事由が推知でき、係員が口頭で確認した場合は、公職選挙法49条の趣旨を没却しない限り適法である。また、違法な不在者投票が選挙結果に及ぼす影響の判断において、当該投票は当選人の得票から差し引くべきであるが、落選人の得票に加える必要はない。
問題の所在(論点)
1. 公職選挙法49条各号所定の不在事由の証明書において、記載が不十分な場合や作成名義が形式的でない場合、その投票は一律に無効となるか。 2. 違法に受理された不在者投票がある場合、「選挙の結果に異動を及ぼす虞」をどのように算定すべきか。
規範
1. 不在者投票事由の証明(公職選挙法49条、施行令52条)の適否は、土地の実情、習慣、選挙人の職業等を考慮して判断すべきである。記載が簡略であっても、これらから事由が推知でき、かつ投票事務担当者が口頭で詳細を確認した場合には、不在者投票制度の趣旨(不正防止と投票機会の保障)に照らし、適法と解される。 2. 選挙無効の要件である「選挙の結果に異動を及ぼす虞」(法205条1項)の判断に際し、不当に受理された違法投票は、いずれの候補者の得票か不明なため、当選人の得票から差し引いて計算すべきであるが、拒否された場合と異なり落選人の得票に加算する必要はない。
重要事実
三浦市長選挙において、不在者投票の適法性が争われた。不在証明書には「冷凍魚水揚」「出張」「昼夜運転」等の簡略な記載しかなく、作成名義が市長等ではなく担当室長名義のものや、会社名のみのものも含まれていた。係員は、三浦市の地域柄(冷凍魚水揚は市外で行われることが多い等)を考慮しつつ、口頭で行先等を確かめた上で投票を受理した。原審は一部を違法としたが、残る違法投票数は得票差を下回るとして選挙を有効としたため、上告人が争った。
あてはめ
1. 証明者の名義について、市長の補助者が市長の認容下で作成した場合や、代表者名のない会社名のみの記載であっても、実質的に権限ある者によるものと認められる。 2. 不在事由の記載について、三浦市では「冷凍魚水揚」が市外での活動を意味する等の土地柄があり、事務担当者が口頭で事実を確認して補充している以上、形式的な不備をもって直ちに不適法とはいえない。厳格すぎる要件は不在者投票制度の趣旨を損なう。 3. 選挙結果への影響について、違法な受領投票は、拒否された投票と異なり、適法に投票された場合の行方が不明確であるから、落選人の得票に加算する論理的根拠はない。
結論
本件の不在者投票は、形式的な不備があるものを含め、実情に照らし不在事由が確認されているため適法である。また、仮に一部が違法であっても、当選人の得票から差し引くのみで足り、選挙の結果に異動を及ぼす虞はない。
実務上の射程
不在者投票の有効性判断において、形式的な記載不備があっても、現場での口頭確認や地域的背景による補完を許容する柔軟な枠組みを示している。また、選挙無効訴訟における「算術的な異動の可能性」の計算方法について、違法な『受理』と『拒否』を区別する実務上重要な基準となっている。
事件番号: 昭和35(オ)463 / 裁判年月日: 昭和35年9月1日 / 結論: 棄却
投票管理者または投票立会人が代理投票補助者になつたため、その間投票管理者の職務執行者を欠きまたは立会人数が法定数を欠くに至つた違法があつても、投票管理者および立会人の職務執行上特に支障を来す事情が見受けられない場合には、その選挙を無効とすべきではない。
事件番号: 昭和33(オ)277 / 裁判年月日: 昭和33年6月10日 / 結論: 棄却
住民登録は住民の居住関係を公証する効力を持つけれども、反対の証拠によつて登録と異なる事実を認めることがゆるされないものではない
事件番号: 昭和32(オ)968 / 裁判年月日: 昭和33年2月6日 / 結論: 棄却
一 不在者投票のため公職選挙法施行令第五五条第二項によつて、都道府県選挙管理委員会が病院の一部を指定しても違法ではない。 二 都道府県選挙管理委員会が公職選挙法施行令第五五条第二項によつて病院の一部を指定した場合に、不在者投票管理者が右指定外の病棟の入院者に不在者投票をさせた違法は選挙無効の原因となり得る。
事件番号: 昭和27(オ)952 / 裁判年月日: 昭和28年3月19日 / 結論: 棄却
所論の不在投票用紙及び投票用封筒を交付するに際し選挙人名簿又は抄本と対照しなかつたという事実は原審も認めているけれども、しかし原判決の認定するところによれば、予め選挙人名簿に基き作成した投票所入場券を各地区の事情にもつとも通ずる駐在員をして選挙人名簿の抄本と対照して予め選挙人に交付してあり、不在者投票用紙及び投票用封筒…