詐害行為として不動産売却行為を取り消し所有権取得登記の抹消を受益者に請求する訴は、受益者が当該不動産上に第三者のために右不動産の価格を上廻る被担保債権額について抵当権を設定している場合には、特段の事情のないかぎり、許されない。
受益者が詐害行為の目的不動産に抵当権を設定した場合と右詐害行為取消請求。
民法424条,民法369条1項
判旨
不動産譲渡が詐害行為として取り消される場合であっても、受益者が設定した抵当権の被担保債権額が不動産価格を上回るときは、共同担保の確保という目的を達し得ないため、詐害行為取消請求は認められない。
問題の所在(論点)
受益者が不動産上に第三者のための抵当権を設定している場合、その抵当権の被担保債権額が不動産の価格を上回るときでも、当該不動産の譲渡行為を詐害行為として取り消すことができるか。
規範
詐害行為取消権(民法424条)の行使が認められるためには、当該行為の取消しによって「一般債権者の債権の共同担保を確保し得る」という目的を達せられる必要がある。受益者が転得者に対して抵当権を設定している場合、取消判決の効力は相対的であるため抵当権は消滅しない。したがって、抵当権の被担保債権額が不動産価格を上回る場合には、特段の事情のない限り、取消権の行使は共同担保の確保に寄与しないため、詐害行為に該当しない。
重要事実
債務者Dは、本件不動産を受益者(上告会社)に売り渡し、受益者は転得者EおよびFに対して抵当権を設定した。債権者は受益者に対し、売買契約の取消しおよび所有権移転登記の抹消を求めて提訴した。受益者は、E・Fに対する抵当権の被担保債権額が合算して本件不動産の価格を上回ると主張した。
あてはめ
詐害行為取消判決の効力は相対的であり、受益者が設定した抵当権は、転得者である抵当権者に対し設定行為の取消しを請求しない限り消滅しない。本件において、もし受益者が主張するように抵当権の被担保債権額の合計が不動産価格を上回っているならば、仮に譲渡行為を取り消して不動産を債務者に復帰させたとしても、依然として優先的な抵当権の追及力が存続する。この状態では一般債権者のための引当て(共同担保)は実質的に回復せず、債権者取消権の制度趣旨である共同担保の確保を達成できない。
結論
受益者が設定した抵当権の被担保債権額が不動産の価格を上回る場合には、共同担保確保の目的を達し得ないため、原則として詐害行為取消請求を認容することはできない。
実務上の射程
詐害行為取消権における「詐害性」の判断において、不動産の時価と担保権の負担額を比較する実務上の枠組みを提示したものである。答案上は、オーバーローンの不動産譲渡について債権者への「無資力」や「逸失」の有無を論じる際に、本判例の論理を援用して詐害性を否定する根拠として用いる。
事件番号: 昭和38(オ)741 / 裁判年月日: 昭和40年10月15日 / 結論: 破棄差戻
一 抵当権が設定してある家屋を提供してなされた代物弁済が詐害行為となる場合に、その取消は家屋の価格から抵当債権額を控除した残額の部分に限つて許されると解すべきである。 二 前項の場合において、取消の目的物が一棟の家屋の代物弁済で不可分のものと認められるときは、債権者は一部取消の限度で価格の賠償を請求する外はない(昭和三…
事件番号: 昭和61(オ)495 / 裁判年月日: 昭和63年7月19日 / 結論: 破棄差戻
抵当権の設定されている不動産について当該抵当権者以外の者との間にされた代物弁済予約及び譲渡担保契約が詐害行為に該当する場合において、右不動産が不可分のものであり、詐害行為の後に弁済等によつて右抵当権設定登記が抹消されたときは、その取消による原状回復は、右不動産の価額から右抵当権の被担保債権額を控除した残額の限度で価格賠…