特許権の範囲確認審決に対する訴において、特許権の範囲を判断するについては、出願当時の技術水準をも考慮すべきである。
特許権の範囲確認審決に対する訴において特許出願当時の技術水準を考慮することの要否。
旧特許法(大正10年法律96号)84条,旧特許法(大正10年法律96号)128条の2
判旨
特許権の権利範囲を確定するに際しては、出願当時の技術水準を勘案すべきであり、公知の技術に基づき特許発明の要旨を限定的に解釈することは許容される。
問題の所在(論点)
特許権の有効性を前提とする権利範囲の判定において、出願当時の公知技術を参酌して特許発明の要旨を限定的に解釈し、権利範囲を確定することは許されるか。
規範
特許権は新規な工業的発明に対して与えられるものであるから、権利範囲を確定するに際しては、出願当時の技術水準を考慮しなければならない。出願当時において公知であった部分は新規な発明とはいえないため、特許発明の要旨は、公知技術とは異なる当該発明独自の特殊な構造や技術思想に基づいて画定されるべきである。
重要事実
上告人は、炭車等の脱線防止装置に関する特許権を有していた。本件は権利範囲確認審判の審決に対する訴訟である。本件特許の内容は、車軸と車体支持台の遊動孔との間に「充分なる間隙」を設けることで脱線を防止するものであった。一方、対象となった「再訂正(イ)号図面」の構成は、左右の間隙を上下動を許す限度に留めるものであった。原審は、出願当時において車軸を遊動孔に差し入れて脱線を防止する手法自体は公知であったとし、本件特許の範囲をその特殊な構造に限定して解釈した。
あてはめ
本件特許の出願当時、車軸を遊動孔に差し入れ、固定せずに脱線を防止する手法自体は既に公知であった。そのため、本件特許の保護範囲は、公知技術とは異なる「特殊な構造(異径弧面接触や十分な遊動間隙の存置)」に対して与えられたものと解すべきである。再訂正(イ)号図面は、左右の間隙を最小限に留めて上下動により脱線を防止する思想に基づくものであり、十分な左右の間隙により円滑な移動を図る本件特許の技術思想とは異なる。したがって、公知技術を背景とした限定的な要旨認定に照らせば、再訂正(イ)号図面は本件特許の権利範囲に属さないといえる。
結論
特許発明の権利範囲を確定するにあたり当時の技術水準を考慮することは相当であり、本件発明と構成・思想を異にする対象物件は、特許権の範囲に属さない。
実務上の射程
権利範囲の解釈(文言解釈)において、公知技術を参酌して発明の技術的意義を限定的に捉える手法を認めたものである。特許無効の抗弁(特許法104条の3)が確立する以前の判例であるが、現在でも発明の要旨認定や技術的範囲の確定において、先行技術との対比から権利範囲を実質的に画定する際の有力な根拠となる。
事件番号: 昭和40(行ツ)88 / 裁判年月日: 昭和45年6月16日 / 結論: 棄却
(省略)