一 約束手形の受取人欄の記載が無権限で抹消された場合は手形の変造にあたり、振出人は、変造前の文言に従つて責任を負う。 二 前項の場合、変造後の当該手形の所持人は、当初の受取人から同手形を取得した経路とその取得をもつて振出人に対抗しうる事由を主張立証しないかぎり、振出人に対し手形金の支払を請求することができない。
一 約束手形の受取人欄の抹消と手形の変造 二 受取人欄の記載が変造された手形の所持人による手形金請求の許否
手形法69条
判旨
受取人欄の記載を権限なく抹消し白地手形のような外観を呈せしめる行為は手形の変造に当たり、振出人は変造前の原文言に従って責任を負う。変造後の受取人として記載された所持人が支払を請求するには、原文言上の受取人からの正当な権利承継を主張・立証する必要がある。
問題の所在(論点)
記名式手形の受取人欄を抹消して白地手形のような外観を呈せしめる行為が「変造」に当たるか。また、変造後の受取人として記載された所持人が振出人に手形金請求を行うための要件は何か。
規範
約束手形の変造とは、署名以外の手形内容を権限なく変更することをいう。受取人として記載されている文言を無権限で抹消し、受取人白地の手形たる外観を呈せしめることも変造に該当する(手形法77条1項、69条)。変造前に署名した者は変造前の原文言に従って責任を負うため、変造後の記載に基づく所持人は、原文言上の受取人からの正当な権利承継(債権譲渡の対抗要件等)を主張・立証しなければならない。
重要事実
振出人(被上告会社)は、受取人をD商店とする約束手形を振り出した。しかし、D商店の代表者Eは、受取人欄の「株式会社D商店」の記載を勝手に抹消して白地手形のような外観を作った上でFに交付し、Fは受取人欄に上告人の氏名を記入して上告人に交付した。上告人は、受取人として自己の氏名が記載された手形を所持し、振出人に対し手形金の支払を求めた。
あてはめ
本件では、受取人欄の抹消により手形文言の変造があったと認められる。振出人は、変造前の原文言である「受取人D商店」という内容に従ってのみ責任を負う。上告人は受取人欄に自己の氏名がある手形を所持しているが、これのみでは足りず、D商店からどのような経路で手形を取得したかを明らかにし、D商店からの権利承継(債権譲渡の対抗要件具備)を主張・立証すべきである。上告人はこの点について主張・立証を欠いている。
結論
上告人の請求は認められない。受取人欄の変造がある場合、変造後の名義人は、原文言の受取人からの正当な権利承継を証明しない限り、変造前に署名した振出人に対し手形債権を主張できない。
実務上の射程
手形法69条の「変造」の意義を広く解し、受取人欄の抹消も含むとした点に意義がある。答案上は、変造前の署名者の責任範囲を確定する際、69条を根拠に「原文言どおりの責任」であることを指摘し、所持人側には原文言の受取人からの実質的資格の証明を求めるロジックとして活用する。
事件番号: 昭和41(オ)586 / 裁判年月日: 昭和41年12月1日 / 結論: 棄却
会社の資力を仮装するため単に見せ手形として使用する約束のもとに振出人欄に記名押印し振出日および受取人欄を空欄として交付された約束手形につき、相手方が約旨に反して右空欄を補充した場合であつても、さらに裏書譲渡を受けた所持人が悪意重過失なくして右約束手形を取得したものである以上、振出人は所持人に対して手形金支払義務を負うも…