一 所得税法第九条第一項第八号にいう収入金額とは、譲渡資産の客観的な価額を指すものではなく、現実の収入金額を指すものと解すべきである。 二 譲渡資産上の抵当権を抹消するため、第三者の債務を弁済しても、その費用は、所得税法第一一条の四の雑損にあたらない。 三 譲渡資産上の抵当権を抹消するため、第三者の債務を弁済しても、その費用は所得税法第九条第一項第八号の経費にあたらない。
一 所得税法第九条第一項第八号にいう収入金額の意義。 二 譲渡資産上の抵当権を抹消するための第三者の債務の弁済は所得税法第一一条の四の雑損か。 三 譲渡資産上の抵当権を抹消するため第三者の債務の弁済に要した費用は所得税法第九条第一項第八号の経費にあたるか。
所得税法9条1項8号,所得税法11条の4
判旨
譲渡所得における総収入金額は、資産の客観的価額ではなく、現実の収入金額を指し、抵当権抹消のための債務弁済額は、譲渡費用や雑損控除の対象には当たらない。
問題の所在(論点)
譲渡資産に設定された他人の債務を担保する抵当権を抹消するために支出した費用が、譲渡所得の計算上、①総収入金額の算定において控除されるか、②雑損控除(所得税法11条の4)に該当するか、③譲渡費用(所得税法33条3項)に該当するか。
規範
1. 譲渡所得における「収入金額」とは、譲渡資産の客観的な価額ではなく、具体的場合における「現実の収入金額」を指す。 2. 「譲渡に関する経費」(現・譲渡費用)とは、譲渡を実現するために直接必要な支出を意味する。 3. 「雑損控除」の対象となる損失とは、納税義務者の意思に基づかない、いわば災難による損失を指す。
重要事実
上告人は、自己の所有資産を560万円で譲渡したが、当該資産には訴外D社の債務300万円を担保するための抵当権が設定されていた。上告人は、この抵当権を抹消するためにD社の債務300万円を代位弁済した。上告人は、この300万円について、①総収入金額から控除されるべきである、②雑損控除として差し引かれるべきである、あるいは③譲渡に関する経費に当たると主張して争った。
事件番号: 平成15(行ヒ)217 / 裁判年月日: 平成18年4月20日 / 結論: 破棄差戻
1 資産の譲渡に当たって支出された費用が所得税法33条3項にいう「資産の譲渡に要した費用」に当たるかどうかは,現実に行われた資産の譲渡を前提として,客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきである。 2 土地改良区の組合員が同区内の農地を転用目的で譲渡するに当たり土地改良法42…
あてはめ
1. 上告人は現実の売却代金として560万円を受領しており、これが「現実の収入金額」である。抵当権抹消のために支出した300万円をここから差し引く理由は認められない。 2. 抵当権の設定自体は上告人の意思に基づくなされたものであるから、その実行を免れるための弁済による損失は、意思に基づかない「災難による損失」とはいえず、雑損控除には当たらない。 3. 300万円の支出は、他人の債務を肩代わりしたものであって、資産の譲渡を実現するために「直接必要な支出」とは認められないため、譲渡に関する経費(譲渡費用)にも当たらない。
結論
抵当権抹消のための弁済額は、収入金額からの控除、雑損控除、および譲渡費用のいずれにも該当せず、譲渡所得の金額は現実の受領額に基づき計算される。
実務上の射程
譲渡所得の計算において、資産の「客観的価額」と「現実の収入金額」を峻別する基準を示す。特に他人の債務を担保するために設定された抵当権がある場合、その抹消費用は譲渡所得の計算上、必要経費(譲渡費用)として認められないという実務上の厳格な枠組みを提示しており、所得税法の計算構造を理解する上で重要である。
事件番号: 昭和35(オ)256 / 裁判年月日: 昭和36年12月1日 / 結論: 棄却
個人の資産再評価差額を零とする審査決定のみの取消を求める法律上の利益はない。
事件番号: 昭和61(行ツ)115 / 裁判年月日: 平成4年7月14日 / 結論: 棄却
個人の居住の用に供される不動産の譲渡による譲渡所得の金額の計算上、当該不動産の取得のために代金の全部又は一部の借入れをした場合における借入金の利子は、当該不動産の使用開始の日以前の期間に対応するものに限り、所得税法三八条一項にいう「資産の取得に要した金額」に含まれる。
事件番号: 昭和27(オ)455 / 裁判年月日: 昭和30年7月26日 / 結論: 棄却
所得税法(昭和二五年法律第七一号による改正前)第一〇条第二項の「仕入品の原価」とは、仕入れし得べき価格ではなく、仕入品の現実の取得原価と解すべきである。