証拠調の結果と弁論の全趣旨を総合して事実を認定している場合、右弁論の全趣旨が何を指すかが具体的に判示されていなくても、記録を照合すればおのずから明らかであるときは、理由不備の違法はない。
弁論の全趣旨が具体的に判示されていなくても違法でない事例。
民訴法185条,民訴法395条6号
判旨
裁判所が判決において「他に認定を覆すに足りる証拠はない」と判示した場合には、相手方が成立を否認している証拠について、その成立を認めない趣旨が含まれていると解するのが相当である。
問題の所在(論点)
裁判所が特定の証拠について明示的に「不成立」と述べることなく、「認定を覆すに足りる証拠はない」と判示した場合に、成立が否認されている証拠の成否を判断したものと認められるか。また、それが理由不備(民訴法旧401条、現312条2項6号)に当たるか。
規範
判決文において「他に認定を覆すに足りる証拠はない」との説示がある場合、それは単に証拠価値の判断にとどまらず、成立が争われている証拠(文書等)についてその成立を認めることができないという判断を包含していると解される。
重要事実
上告人が提出した証拠(乙第4号証)に対し、被上告人がその成立を否認していた。原審は、上告人が主張する事実を覆すに足りる証拠はないとして上告人の請求を排斥する趣旨の判決を下した。これに対し上告人は、原審が乙第4号証の成立認否や証拠力について明確に判断しておらず、理由不備または理由齟齬の違法があると主張して上告した。
あてはめ
被上告人が乙第4号証の成立を否認している状況下で、原審が「他に前示認定をくつがえすに足る証拠はない」と判示したことは、文理上、乙第4号証を含め提出された各証拠が認定を左右するに足りないことを示すものである。この表現には、当該証拠の成立を認め得ないという趣旨が含まれていると解するのが相当である。したがって、明示的に証拠の成立を否定する文言がなくとも、必要な判断は尽くされており、理由不備の違法はない。
結論
原判決に理由不備の違法はなく、上告は棄却される。証拠の成立認否についても、判示全体の趣旨からその判断が含まれていると解される。
実務上の射程
裁判所の事実認定プロセスにおいて、全ての証拠に対して個別に採否や成立の有無を詳述せずとも、全体的な説示(「他に認定を覆すに足りる証拠はない」等)によって、成立が争われている証拠の排斥が法的に完結し得ることを示している。民事訴訟法上の理由不備を論じる際の事実認定の合理性に関する限界事例として活用できる。
事件番号: 昭和25(オ)58 / 裁判年月日: 昭和27年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約が物価統制令に違反し無効であるとの抗弁については、抗弁を主張する側がその違反の事実を立証する必要があり、立証がない場合は当該事実は認められない。 第1 事案の概要:上告人と被上告人の間で杉材の売買契約が締結された。上告人は、当該契約の代金が物価統制令所定の価格を超えて設定されており、同令に…
事件番号: 昭和34(オ)566 / 裁判年月日: 昭和37年12月25日 / 結論: 破棄差戻
一方において売買予約の成立を推定するに足る間接事実を認定しておきながら、他方首肯するに足る理由を示すことなく売買予約の成立を否定した原判決には、審理不尽理由不備則の違法がある。