一 小切手法第一三条は、善意でかつ重過失なくして白地小切手を取得した所持人が自ら予めなされた合意と異なる補充をした場合にも適用があるものと解すべきである。 二 振出日白地の小切手の補充権は、五年の時効によつて消滅する。
一 小切手法第一三条の適用。 二 白地小切手補充権の消滅時効期間。
小切手法13条,手形法10条,商法522条
判旨
白地小切手の補充権を合意に反して行使した場合でも、善意・無重過失の所持人は小切手法13条により保護される。また、補充権の消滅時効は商法522条を準用し、行使可能時から5年と解される。
問題の所在(論点)
白地小切手の所持人が自ら合意と異なる補充をした場合に小切手法13条が適用されるか。また、白地小切手の補充権の消滅時効期間は何年か。
規範
1. 補充権の濫用(小切手法13条):合意と異なる補充がなされた場合、その違反は善意かつ重過失なく小切手を取得した所持人(自ら補充した者を含む)に対抗できない。 2. 補充権の消滅時効:補充権は小切手法が定める短期時効の趣旨や「手形に関する行為」に準ずる性質に鑑み、商法522条を準用して行使し得るときから5年の経過により消滅する。 3. 権利の失効:単なる権利の不行使だけでなく、信義則に反すると認められる特段の事情がない限り、権利の自壊による失効は認められない。
重要事実
上告人は、振出日を白地とする小切手を振り出した。その後、被上告人が本件小切手を取得し、振出日を補充して小切手上の権利を行使した。上告人は、補充が当初の合意に反すること、補充権が時効(民法167条の10年)により消滅していること、及び権利の自壊による失効を主張して争った。
あてはめ
1. 補充権の濫用について、小切手法13条の趣旨は流通の円滑と善意の所持人保護にあるため、自ら補充した者であっても取得時に善意・無重過失であれば保護される。 2. 時効について、補充権は小切手を完成させる形成権であり、商法501条4号の「手形に関する行為」に準ずる。小切手上の債権発生の要件であることや小切手法が短期時効を採用していることを勘案すれば、商行為によって生じた債権と同様に5年と解するのが相当である。 3. 本件では、補充につき信義則に反する特段の事情は認められない。
結論
補充権の消滅時効は5年であり、本件では権利行使に信義則違反の事情もないため、適法な補充に基づく請求を認めた原審の判断は正当である。
実務上の射程
白地手形・小切手における補充権の消滅時効を「5年」と確定させた極めて重要な判例である。答案上は、補充権の性質を「形成権」としつつ、商法の短期消滅時効を準用する論証の根拠として用いる。また、濫用と13条(手形法10条)の関係についても、自ら補充する場合を含む点を確認する際に有用である。
事件番号: 昭和37(オ)645 / 裁判年月日: 昭和38年7月16日 / 結論: 棄却
約束手形の白地補充権は五年の短期消滅時効にかかるものと解するのを相当とする。