甲が乙から山林を買い受けその引渡を受けて二十数年を経た後に、右事実を熟知していた丙が、甲の所有権取得登記が未了なのに乗じ、甲に対する別の紛争につき復讐しようとし、乙の相続人丁に対しその意図を打ち明けて右山林の売却方を懇請し、低廉な価格でこれを同人から買い受け登記をする等、原審認定のような事情(原判決理由参照)があつたときは、右丙丁間の売買は民法第九〇条により無効である。
二重売買が民法第九〇条により無効と判定された事例。
民法90条,民法177条,不動産登記法4条
判旨
第一譲受人の未登記を奇貨として、第二譲受人が譲渡人と通謀して横領を企て、著しく低廉な価格で買い受ける等の背信的行為を行った場合、当該売買契約は公序良俗に反し無効であり、第二譲受人は民法177条の「第三者」にも該当しない。
問題の所在(論点)
譲渡人の横領行為に積極的に加担して不動産を二重に買い受けた者は、民法90条により契約が無効となるか、また民法177条の「第三者」に含まれるか。
規範
不動産の二重譲渡において、第二譲受人が譲渡人の横領行為に積極的に加担し、通謀して当該不動産を買い受けるなど、自由競争の範囲を逸脱した著しい背信性が認められる場合には、当該契約は公序良俗(民法90条)に反し無効となる。また、このような背信的悪意者は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する「第三者」(民法177条)に該当しない。
重要事実
被上告人(第一譲受人)は、本件山林を買い受けたが未登記のまま長期間経過していた。上告人A(第二譲受人)は、この事実を熟知しながら、譲渡人Dと通謀して山林の横領を企て、著しく低廉な価格で買い受けた。さらに、Aは処分禁止の仮処分に関する不当な経緯を経て登記を得、結果として刑事訴追を受けるに至った。被上告人は、AとDの売買契約の無効等を主張した。
事件番号: 昭和31(オ)919 / 裁判年月日: 昭和32年11月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の二重贈与において、第二の受贈者が第一の贈与の事実を知っていた(悪意であった)としても、それだけで直ちに公序良俗に反する等の特段の事情がない限り、先に登記を備えた第二受贈者が優先して所有権を取得する。 第1 事案の概要:贈与者B1は、土地を上告人Aに贈与し、その引渡しを完了したが、所有権移転…
あてはめ
上告人Aは、第一譲受人の未登記を熟知した上で、Dと通謀して横領を企てている。売買価格が著しく低廉であることや、刑事訴追を受けるほどの不法な態様で登記を得ている事実は、単なる悪意を超えた公序良俗違反を基礎付けるものである。このような背信的態様による取引は社会的妥当性を欠くため、契約自体が無効であり、Aが登記を備えたとしても所有権取得を対抗し得る「第三者」とは認められない。
結論
本件売買契約は公序良俗に反し無効であり、上告人Aは民法177条の「第三者」に該当しないため、所有権を取得できない。
実務上の射程
背信的悪意者排除の論理と公序良俗違反の重畳的な適用を示した事例。答案上は、単なる悪意ではなく「積極加担」等の事情がある場合に、民法90条による契約無効と民法177条の「第三者」該当性否定をセットで論じる際の根拠となる。判例は「通謀して横領を企てた」という主観面と「著しく低廉な価格」等の客観面を総合考慮している点に留意が必要。
事件番号: 昭和33(オ)554 / 裁判年月日: 昭和36年8月17日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】独立当事者参加訴訟において、一当事者が証書の成立を認める自白をしても、参加人がこれを争う以上、当該自白の効力は参加人には及ばず、二段の推定(民訴法228条4項)も適用されない。 第1 事案の概要:不動産所有権移転登記手続請求事件の控訴審において、第三者Aが民訴法47条に基づき独立当事者参加した。本…
事件番号: 昭和33(オ)880 / 裁判年月日: 昭和36年12月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法177条の「第三者」とは、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する者を指す。したがって、不動産を不法に占有する者は、所有権の取得登記がないことを理由にその明渡請求を拒むことはできない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、債務者が貸金の弁済期に履行しないときは何らの意思表示を要せず貸金…
事件番号: 昭和33(オ)169 / 裁判年月日: 昭和34年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産を元の所有者から譲り受けたと偽って第三者に譲渡した者は、真の譲受人に対して民法177条の「第三者」に該当しない。無権利者から不動産を譲り受けた者、およびその転得者は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者に当たらないためである。 第1 事案の概要:本件宅地について、被上告人は元所有者Dから…