食肉並びに加工品の販売等を目的とする甲会社が、平素取引関係のある、軍需用食料品の納入、食用獣鳥および活獣の販売、斡旋等を目的とする乙会社を援助するため、その金借債務につき、甲会社所有の建物に抵当権を設定し、弁済期に弁済しない場合の代物弁済契約、並びに賃借権設定契約をすることは、甲会社の営業目的を遂行するに必要な事項で、会社の目的の範囲内の行為と認めるべきである。
会社の目的の範囲内の行為と認めるべき一事例
民法43条
判旨
会社の権利能力の範囲内といえるかは、定款に定められた目的を遂行するに必要であるか否かにより、諸般の事情を総合して客観的に判断される。たとえ多額の債務について唯一の資産を物上保証に供する行為であっても、その経緯や目的等に照らし目的遂行に必要と認められれば権利能力の範囲内である。
問題の所在(論点)
会社の唯一の資産を他人の多額の債務のために物上保証に供する行為が、定款所定の「目的の範囲内」の行為として、会社の権利能力に属するか。
規範
会社の権利能力は、定款に定められた目的の範囲内に限られる(民法34条参照)。ここにいう「目的の範囲内」の行為とは、定款に明示された目的達成のために直接又は間接に必要な行為をすべて包含する。その判断にあたっては、行為の主観的な意図ではなく、行為の客観的な性質や成立に至る経緯等の諸般の事情を総合して、目的遂行に必要といえるか否かによって決せられる。
重要事実
上告会社は、D株式会社との取引経緯に基づき、同社に対する多額の債務を担保するため、自社の唯一の資産であり唯一の営業所兼店舗でもある建物に対し、抵当権設定等の物上保証行為を行った。上告人は、主たる債務者が履行不能な状況で無担保かつ過大な債務に対し、会社全資産を超える唯一の店舗を担保に供することは、会社の目的遂行に必要な行為ではなく、権利能力の範囲外の無効な行為であると主張して争った。
事件番号: 昭和38(オ)261 / 裁判年月日: 昭和39年3月24日 / 結論: 棄却
合資会社の社員が、第三者の債務につき、会社を代表して連帯保証契約を締結し、会社財産を担保にする行為は、たとえ右社員が右第三者の債務負担につき代理人として関与した場合であつても、商法第七五条にいう「取引」にあたらない。
あてはめ
本件抵当権設定等の行為は、D株式会社との間におけるこれまでの取引上の経緯や諸般の事実を総合的に考慮すれば、上告会社の営業目的を遂行する上で必要であり得るものと認められる。上告人は主たる債務者の履行不能や債務の多額性を主張するが、原審においてそれらの事実は認定されておらず、むしろ取引の維持や事業継続の観点からなされた合理的な行為と評価できる。したがって、本件行為は客観的に見て会社の目的の範囲内に属する行為といえる。
結論
本件抵当権設定等の各行為は、会社の目的の範囲内の行為であり有効である。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
民法34条の「目的の範囲」を広く解釈する判例法理(八幡製鉄事件等に連なる流れ)を再確認するものである。答案上では、行為が定款の文言に直接合致しなくとも、事業遂行上の必要性や経緯等の事実を拾い、それらが「間接に必要な行為」に含まれることを論証する際の根拠として活用できる。特に物上保証のように一見すると会社に不利益な行為であっても、取引関係の維持等の事情があれば目的の範囲内となり得る点に射程が及ぶ。
事件番号: 昭和30(オ)632 / 裁判年月日: 昭和33年5月9日 / 結論: 棄却
被担保債権である現存の債権および将来成立すべき条件付債権を、現存の貸金債権と表示してなされた抵当権設定登記であつても、当事者が真実その設定した抵当権を登記する意思で登記手続を終えた以上、これを当然に無効のものと解すべきではない
事件番号: 昭和35(オ)1470 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
右登記を無効として抹消を求めることはできない。(昭和三〇年(オ)第六三二号同三三年五月九日第二小法廷判決、民集一二巻九八九頁参照)。
事件番号: 昭和32(オ)121 / 裁判年月日: 昭和33年6月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】意思表示の動機が、表示等により法律行為の内容とされた場合には、その動機に関する認識の不一致は「法律行為の要素の錯誤」に該当し、当該意思表示は無効となる。 第1 事案の概要:被上告人は、上告会社の社員から融資の約束を受けた。被上告人は、この融資を受けられることを前提(動機)として、本件抵当権設定契約…
事件番号: 昭和34(オ)989 / 裁判年月日: 昭和36年6月8日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】債務の残額に比して代物弁済の目的物の価格が著しく高価であり、予約完結権の行使が債務者に対しあまりに過酷な場合には、信義則(民法1条2項)または公序良俗(同90条)に反し無効となる。目的物の価格算定においては、単なる建築費のみならず、敷地賃借権の有無等の付加価値も考慮すべきである。 第1 事案の概要…