一 仮差押登記後に設定登記された抵当権であつても、仮差押が債権の一部の執行保全のためになされたものにすぎないときは、被保全債権額を超える債権の部分に対しては、優先的効力を対抗できるものと解すべきである。 二 配当表を変更しても自己に対する配当を受けることができない場合であるときは、配当表に対する異議の申立をする利益はないものと解すべきである。
一 仮差押登記後に設定された抵当権と被保全債権額超過部分の債権に対する対抗力 二 配当異議申立の利益のない事例
民訴法737条,民訴法698条,民法369条
判旨
仮差押えの効力は保全債権額の限度に留まるため、仮差押登記後に登記された抵当権者は、保全債権額を超える残余金について優先弁済を主張し得る。ただし、配当額が保全債権額に満たない場合には、抵当権者は配当異議を述べる利益を有しない。
問題の所在(論点)
仮差押登記後に登記された抵当権は、仮差押債権者に対しどの範囲で対抗できるか。また、配当額が保全債権額を下回る場合、後順位抵当権者に配当異議の訴えを提起する法的利益が認められるか。
規範
1. 仮差押えの効力は、これによって保全しようとする債権の限度に限られ、これを超える部分には及ばない。2. 仮差押執行後に登記された抵当権であっても、上記保全債権額を超える部分については、抵当権をもって仮差押債権者に対抗することができる。
重要事実
債権者A(被上告人)が債務者の不動産を仮差押えし、その後に抵当権者B(上告人)が抵当権設定登記を経た。不動産の競売の結果、売得金残額は約9万円であったが、Aの保全債権額(本件強制執行の基本債権と同一)は25万円であった。Bは、Aに対する配当に異議を唱え、自らへの配当を求めて提訴した。
あてはめ
本件における売得金残額は約9万円であり、Aが保全すべき債権額25万円を大きく下回っている。仮差押えの効力は保全債権額の範囲で及ぶところ、本件配当額はすべてこの範囲内に収まる。そうであれば、仮差押債権者Aが全額について優先配当を受けるべきであり、抵当権者Bが配当を受け得る余地は全くない。したがって、Bは配当内容を争う実益を欠いているといえる。
結論
仮差押えの効力は保全債権額を限度とするが、本件のように配当額が保全債権額に満たない場合、後順位抵当権者は配当を争う利益を欠くため、その請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
仮差押債権者と後順位抵当権者の優劣関係を定めた重要判例である。答案上は、まず仮差押えの相対的効力が「保全債権額」に限定されることを明示した上で、事案の具体的な配当金額と債権額を比較し、訴えの利益(または配当異議の正当性)の有無を論じる際に活用する。
事件番号: 昭和36(オ)1119 / 裁判年月日: 昭和39年9月29日 / 結論: 棄却
債権者が債務者所有の不動産に対し仮差押執行後、債務者が右不動産の所有権を第三者に譲渡し、その登記を経由した場合には、右仮差押がそのまま本差押となつたときでも、その効力の利益をうける者は依然仮差押債権者のみにとどまり、その利益は、一般私債権者たると租税債権者たるとを問わず、配当要求をなした債権者におよぶものではない。