丁が甲振出名義の約束手形を偽造して受取人乙に交付し、乙がこれを丙に対し負担する売掛代金債務の支払方法としてその情を知らない丙に裏書譲渡し、丙が振出名義人甲に対し手形金請求訴訟をしている間に乙に対し有する右売掛代金債権および手形の遡及権がともに時効により消滅し、よつて丙に損害が発生した場合、手形偽造者丁は、単に丙において時効中断の措置をとり損害の発生を防止する余地があつたというだけで、手形の偽造交付行為と右損害の発生との間の因果関係を否定し、丙に対する不法行為による責任を免れることはできない。
加害行為と損害の発生との間の因果関係を肯定した事例。
民法709条
判旨
被用者の不法行為により偽造手形を取得し、その原因債権が後に消滅時効にかかった場合、被害者が時効中断の措置を講じる余地があったとしても、特段の事情がない限り、不法行為と損害との間の因果関係は遮断されない。
問題の所在(論点)
被用者の偽造行為(不法行為)と、その後の原因債権の時効消滅による損害との間に相当因果関係が認められるか。被害者が時効中断の措置を講じなかったことが因果関係を遮断する理由となるか。
規範
不法行為(民法709条・715条)における因果関係の存否に関し、被害者が損害拡大防止のための措置(時効中断等)を講じることが可能であったとしても、被害者が原因債権の満足を得られないことを知りながら敢えて放置して故意に損害を発生させたなどの特段の事情がない限り、加害行為と損害との間の因果関係は遮断されない。
重要事実
被害者Xは、訴外Dに対する売掛金債権の支払のため、Y社の係長Fが偽造したY社名義の約束手形の裏書譲渡等を受けた。Xは銀行調査やY社次長Iの虚偽の証明等から本件手形を真正と信じ、Yに対し手形金請求訴訟を提起して争っていた。しかし、その間にDに対する元の売掛金債権等は消滅時効にかかり、Xは債権相当額の損害を被った。Yは、Xが訴訟中に時効中断の措置をとることが可能であった以上、Yの被用者の行為と損害との間に因果関係はないと主張した。
あてはめ
Xは、Y社の要職にある係長Fや次長Iによる確信的な言明や証明を信頼し、本件手形が真正であると信じて手形金請求訴訟を継続していた。このような状況下では、Xが時効中断の措置をとる余地があったという一事をもって、不法行為と損害発生との間の因果関係が遮断されるべきではない。Xが売掛金債権による満足を得るほかないと知りつつ、故意に時効を完成させて損害を発生させたような事情も認められない。したがって、売掛金債権が消滅した時点で、Yの被用者の不法行為による権利侵害(損害)が確定したといえる。
結論
被用者の不法行為と、被害者の原因債権の時効消滅という損害との間には相当因果関係が認められ、使用者責任(民法715条1項)が成立する。
実務上の射程
損害の公平な分担の観点から、被害者の過失や不作為が因果関係を遮断するか否かを判断した事例。実務上は、被害者の過失については因果関係の遮断ではなく、過失相殺(民法722条2項)の問題として処理されるのが一般的であり、本判決はその論理構成を前提とするものといえる。
事件番号: 昭和37(オ)1311 / 裁判年月日: 昭和39年6月26日 / 結論: 棄却
約束手形が代理人によりその権限を超越して振り出された場合に、民法第一一〇条により、本人の手形の責任が生ずるためには、手形受取人において右代理人に振出の権限があるものと信ずべき正当の理由を有するときに限るのであって、右受取人にかかる事由のないときは、たとい、その後の手形所持人において右代理人に振出の権限があるものと信ずべ…