漬物用空樽に対してなされた仮差押の執行に際し、執行吏が右物件に差押の標示を貼付せず、工場の壁に公示書を掲示することにとどめ、該物件の保管を債務者に委託した場合には、債務者は、右空樽を通常の用法に従い使用することを妨げられないと解すべきである。
仮差押物件の使用が許されると認められた事例。
民訴法750条1項,民訴法566条
判旨
有体動産の仮差押執行において、公示書の掲示のみが行われ、保管を委託された債務者は、当該物件を通常の用法に従って使用することが妨げられない。したがって、不当な仮差押えであっても、自発的に使用を控えたことによる損害は債権者の帰責事由にならず、賠償請求できない。
問題の所在(論点)
不当な仮差押えがなされた場合において、執行吏が物件個別の標示をせず公示書の掲示と債務者への保管委託にとどめたとき、債務者が自発的に物件の使用を差し控えたことで生じた損害につき、債権者の賠償責任が認められるか。
規範
仮差押えの執行は、目的物の処分を禁止するだけでなく、目的達成に必要な範囲で物件の使用・管理・収益を制限する効力を有するが、その制限の限度は目的物および執行方法によって異なる。執行吏が物件個別に標示(封印等)を付さず、公示書の掲示にとどめて債務者に保管を委託した場合、債務者は当該物件を通常の用法に従って使用することを妨げられない。
重要事実
銀行(被上告人)が、債務者(上告人ら)共有の漬物用空大樽等に対し、有体動産仮差押命令に基づき執行を行った。執行吏は、樽の一つ一つに仮差押標示を貼付せず、工場の事務所入口に公示書を掲示するにとどめ、立会人であった債務者の一人に保管を委託した。債務者らは、仮差押中であることを理由に樽を使用しなかった。その後、本案訴訟で銀行が敗訴し、仮差押えが不当であったとして債務者らが使用不能による損害賠償を請求した。
あてはめ
本件では、執行吏は樽ごとに標示を付しておらず、債務者Aに対し物件の保管を委託している。この場合、債務者Aは樽を通常の用法に従って使用することが認められる。また、他の債務者らもAの補助者として共同事業のためにこれを使用することは通常の用法に反しない。それにもかかわらず、債務者らが自らの判断で樽を使用しなかったことにより生じた損害は、債権者の行為と相当因果関係にある損害とはいえず、債権者の責に帰することはできない。
結論
債務者は仮差押物件の使用を妨げられていないため、使用しなかったことによる損害を債権者に請求することはできない。上告棄却。
実務上の射程
不当執行に基づく損害賠償請求(民法709条)における相当因果関係の判断枠組みとして活用できる。執行方法(封印の有無や保管態様)によって債務者が受ける法的・実質的な制約の範囲を認定し、債務者の自発的な不作為による損害を切り分ける際に有用である。
事件番号: 昭和36(オ)1310 / 裁判年月日: 昭和38年11月7日 / 結論: 棄却
立木所有権に基づく引渡請求権を保全するための仮処分命令の執行として、該立木の占有を執行吏に移し売買譲渡伐採その他一切の処分を禁止する旨の公示をなさしめても、右公示は、立木所有権を第三者に対抗するための公示方法を解すべきではない。