一 賃借権の譲渡人は、特別の事情のないかぎり、譲受人に対し、譲渡につき遅滞なく賃貸人の承諾をえる義務を負うものと解すべきである。 二 債務が履行不能となつたときは、債務者は右履行不能が自己の責に帰すべからざる事由によつて生じたことを証明するのでなければ、債務不履行の責を免れることはできない。
一 賃借権の譲渡と賃貸人の承諾をえる義務 二 履行不能と責に帰すべき事由の挙証責任
民法612条,民法415条
判旨
賃借権の譲渡人は、特段の事情がない限り、譲受人に対し賃貸人の承諾を得る義務を負う。また、履行不能に基づく損害賠償請求において、帰責事由の不存在に関する主張・立証責任は債務者側にある。
問題の所在(論点)
賃借権の譲渡人は、賃貸人の承諾を得る義務を負うか。また、履行不能に基づく債務不履行責任において、帰責事由の有無に関する主張・立証責任はどちらの当事者が負うか。
規範
賃借権の譲渡人は、特段の事情がない限り、譲受人に対し、遅滞なく賃貸人の承諾を得る義務を負う。そして、当該義務が履行不能となった場合、債務者は、履行不能が自己の責めに帰すべからざる事由によって生じたことを証明しない限り、債務不履行責任を免れることはできない。
重要事実
上告人(買主)は、被上告人B2(売主)との間で、食堂の営業権、営業用什器、および店舗の家屋賃借権の売買契約を締結した。B2は賃貸人の承諾を得ないまま店舗を引き渡したが、最終的に賃貸人は譲渡を承諾せず、店舗建物を取り壊したため、賃借権の譲渡義務は履行不能となった。上告人はB2に対し、代金返還等の債務不履行責任を追及した。
事件番号: 昭和34(オ)757 / 裁判年月日: 昭和35年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】名義貸人の責任(商法14条、旧23条)が認められるためには、名義貸人が自己の商号を使用して営業を行うことについて、他者に対し明示または黙示の承諾を与えていることを要する。 第1 事案の概要:上告人(原告)は、訴外Dとの間で取引を行った。しかし、Dには被上告人(被告)を代表または代理する権限がなかっ…
あてはめ
B2は賃借権の譲渡人として、賃貸人の承諾を得る義務を負う。本件では承諾が得られないまま建物が取り壊され、譲渡義務は履行不能となっている。原審は、帰責事由の立証責任を債権者(買主)に負わせたが、債務不履行に基づく責任を免れるためには、債務者であるB2側が「自己の責めに帰すべからざる事由」を主張・立証しなければならない。したがって、立証がないことを理由に債権者の請求を排斥した原審の判断は、立証責任の分配を誤った違法がある。
結論
賃借権の譲渡人は承諾取得義務を負い、その履行不能について帰責事由の不存在を立証できない限り、債務不履行責任を負う。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
賃借権譲渡契約における譲渡人の義務内容を確定させるとともに、債務不履行(履行不能)の要件事実として「帰責事由の不存在」が抗弁事由(債務者側が立証責任を負うこと)であることを明示した基本判例である。答案作成上は、民法412条の2第1項および415条1項ただし書の解釈として、立証責任の所在を示す際に活用すべきである。
事件番号: 昭和27(オ)505 / 裁判年月日: 昭和30年9月23日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】表見代理の成立が争われる事案において、当事者の主張がないにもかかわらず裁判所が表見代理を認めることは審理不尽であり、また単なる出張所長への任命事実のみをもって直ちに代理権の授与表示があったと判断することはできない。 第1 事案の概要:上告人会社(被告)の出張所長を自称したDが、被上告人(原告)と昆…
事件番号: 昭和25(オ)9 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】当事者が主張していない重畳的債務引受の事実を裁判所が認定して判決の基礎とすることは、弁論主義に違反し許されない。 第1 事案の概要:被上告人(買主)は、売買契約の売主が上告人及び共同被告Dの2名であると主張した。これに対し、上告人は売主は自分単独であり、後に免責的債務引受がなされたと抗弁した。しか…
事件番号: 昭和34(オ)598 / 裁判年月日: 昭和36年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買の目的物である建物が抵当権の実行により競落された場合、売主の債務は履行不能となり、原則として債務者の責に帰すべき事由によるものと解される。また、保証人は主債務者の債務不履行による填補賠償債務についても保証責任を負う。 第1 事案の概要:被上告人(買主)と訴外D(売主)との間で建物の売買契約が締…