一 行政処分の無効原因の主張としては、単に抽象的に処分に重大明白な瑕疵があると主張し、または処分の取消原因が当然に無効原因を構成すると主張するだけでは足りず、処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大明白な誤認があることを具体的事実に基いて主張すべきである。 二 農地買収計画につき異議・訴願の提起があるにかかわらず、これに対する決定・裁決を経ないで爾後の手続を進行させたという違法は、買収処分の無効原因となるものではなく、事後において決定・裁決があつたときは、これにより買収処分の瑕疵は治癒されるものと解すべきである。
一 行政処分の無効原因の主張方法 二 農地買収計画につき異議・訴願の提起があるにかかわらず、これに対する決定・裁決を経ないで爾後の手続を進行させたという違法は、買収処分の無効原因となるか
行政事件訴訟特例法1条,自作農創設特別措置法7条,自作農創設特別措置法8条,自作農創設特別措置法9条
判旨
行政処分の無効原因としての重大・明白な違法とは、処分要件の存否に関する認定に重大な誤りがあり、かつその誤りが客観的に明白であることをいう。また、不服申立の裁決前に手続が進められた瑕疵は、その後に不服申立を棄却する裁決があれば治癒され、当然無効とはならない。
問題の所在(論点)
行政処分の無効事由としての「重大・明白な瑕疵」の具体的意義、および不服申立手続の裁決を経ずに次段階の手続を進めた瑕疵の効力が問題となった。
規範
行政処分が当然無効となるためには、その違法(瑕疵)が「重大」かつ「明白」であることを要する。具体的には、処分要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大な誤認があり、かつその誤認が「何人の目にも明白」である場合(例:建物が建つ純然たる宅地を農地と誤認する場合)を指す。また、先行手続の履践を欠いたとしても、それが手続進行の無益を避ける趣旨に留まる場合は、後の判断により瑕疵は治癒され得る。
重要事実
上告人は、本件農地買収処分について、①自創法5条5号による買収除外指定をすべき土地であるのに指定せずになされたこと、②土地区画整理地区内であり買収除外とされるべき土地であること、③自作地を小作地と誤認して買収したこと、④異議の決定・訴願の裁決がなされる前に買収令書交付等の手続が進められたことを理由に、本件処分には重大かつ明白な瑕疵があり当然無効であると主張した。
あてはめ
①〜③について、買収除外事由の有無や自作地・小作地の別を誤認したとしても、それだけでは当然に重大・明白な瑕疵とはいえない。無効を主張するには、その誤認が客観的に明白である具体的状況(例:既に強固な建物が立ち並んでいる等)を主張・立証すべきであるが、本件では単に買収除外の対象である旨を抽象的に主張するに留まる。④について、自創法8条が異議・訴願の判断を待つべきとしたのは、無益な手続進行を避ける便宜的趣旨であり、聴間の機会保障等を本質とするものではない。したがって、後に異議却下・訴願棄却の裁決がなされた以上、その瑕疵は治癒されたと解される。
結論
本件買収処分には当然無効といえるだけの重大かつ明白な違法は認められず、瑕疵の治癒も認められるため、処分の効力は否定されない。上告棄却。
実務上の射程
行政処分の無効・取消しの区別に関するリーディングケース。処分要件の誤認が「客観的に明白」であることを要求する「外見上の明白性」の基準を示している。答案上は、出訴期間経過後に処分の効力を争う場面において、重大・明白性の有無を具体的認定事実から論証する際の規範として用いる。
事件番号: 昭和36(オ)1022 / 裁判年月日: 昭和37年6月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分が当然無効とされるためには、その瑕疵が重大かつ明白であることを要する。農地でないことが客観的に明白な土地を農地と誤認してなされた買収処分は、その瑕疵が重大かつ明白であり、当然無効である。 第1 事案の概要:本件土地は、かつては耕作されていたが、地盤沈下や台風による堤防決壊の影響で海水が浸入…
事件番号: 昭和31(オ)902 / 裁判年月日: 昭和33年4月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分が当然に無効とされるためには、当該処分に重大かつ明白な瑕疵があることを要し、本件買収処分については小作地でない土地を小作地と誤認した点に明白な瑕疵が認められるため無効である。 第1 事案の概要:鎌倉市農地委員会は、本来は自作地(または小作地ではない土地)であった本件農地を小作地であると認定…
事件番号: 昭和32(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和36年4月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分に法令の定める除外事由に該当する土地を買収したという違法があっても、直ちに当然無効となるわけではなく、その瑕疵が重大かつ明白である場合に限り無効となる。 第1 事案の概要:本件土地は、客観的には旧自創法5条5号に該当し、本来であれば買収から除外されるべき土地であった。しかし、処分庁は同号の…
事件番号: 昭和26(オ)251 / 裁判年月日: 昭和32年4月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】既墾地を未墾地と誤認して行った農地買収計画等の行政処分は、その瑕疵が重大かつ明白である場合には当然無効となる。 第1 事案の概要:本件土地は、昭和22年6月の農地買収計画樹立時において、既に開墾が完了していた。具体的には、一方の土地には陸稲が植え付けられ、他方の土地には馬鈴薯や大豆等が蒔き付けられ…