一 請負工事金の支払が村歳出予算の執行行為にあたる場合でも、請負人に右工事資金の融通を受けさせるため村が請負人と共同で約束手形を振出すことは、地方自治法第九六条第一項第八号にいう予算外のあらたな義務を負担する行為にあたる。 二 予算外のあらたな義務を負担する行為につき地方自治法第九六条第一項所定の議決を欠くときは、右行為は無効であつて、その行為が手形行為であるからといつて別異に解すべきではない。 三 村長が当該手形を振出すにつき村議会の議決があるか否かに関し、作成名義人名下に押印のない村議会議事録謄本を示されて不審を抱きながら、特に調査をしなかつた場合には、村長に右手形振出の権限ありと信ずべき正当の事由があるとはいい得ない。
一 地方自治法第九六条第一項第八号にいうあらたな義務を負担することにあたる事例 二 地方自治法第九六条第一項の議決を欠く手形行為の効力 三 村長に当該手形振出の権限があると信ずるにつき正当の事由があるといえない事例
地方自治法96条1項8号,民法110条
判旨
普通地方公共団体が議会の議決を経ずに予算外の義務を負担する行為(手形振出等)を行った場合、当該行為は無権限の行為として原則無効であり、表見代理の成立には議決の有無等の調査を怠らないなどの正当な理由を要する。
問題の所在(論点)
地方公共団体の長が議会の議決を経ずに「予算外の義務の負担」となる行為(手形振出)を行った場合の法的効力、および民法110条の表見代理の成否が問題となる。
規範
1. 地方自治法96条1項8号(現2項も参照)に規定される「予算外の義務の負担」にあたる行為は、議会の議決を要し、これを欠くときは無権限の行為として無効となる。手形行為であっても例外ではない。 2. 民法110条の表見代理の適用については、相手方が「代理権ありと信ずべき正当の事由」を有していることが必要であり、議決の有無という基本的な権限の確認を怠った場合には過失があり、正当な事由は認められない。
重要事実
村長Eは、会社と共同して工事資金の融通を受けるため、議会の議決を経ずに予算外の義務負担となる手形を振り出した。その際、村長側は、作成名義人の調印がない偽造された議事録謄本を上告人に提示した。上告人は、当該議事録に不審を抱きながら、議決の有無について特に調査を行わずに手形を取得した。
あてはめ
1. 本件手形振出は、既定の予算執行ではなく新たに義務を負担するものであるから、地方自治法96条1項8号の議決を要する。この議決を欠く以上、行為は無効である。 2. 表見代理について検討するに、上告人は提示された議事録謄本に作成名義人の調印がないという明白な不備から不審を抱き得る状況にあった。それにもかかわらず、議決の存否という重大な権限根拠について追加の調査を行わなかった事実は、調査義務を尽くしたとはいえず、過失が認められる。したがって、代理権があると信ずべき「正当の事由」は認められない。
結論
本件手形振出行為は、議決を欠くため無効であり、表見代理も成立しないため、村は手形債務を負わない。上告を棄却する。
実務上の射程
地方公共団体の契約・義務負担行為において、議決を欠く行為が原則無効であることを確認した。答案上は、行政主体が私法上の行為を行う際の「無権限」の処理として、民法の表見代理規定(110条等)の類推適用を検討する枠組みで、相手方の調査確認義務を厳格に課す根拠として引用する。
事件番号: 昭和32(オ)620 / 裁判年月日: 昭和36年12月12日 / 結論: 棄却
約束手形が代理人によりその権限を越えて振り出された場合、手形受取人がその権限あるものと信ずべき正当の理由を有しないときは、その後の手形所持人は、たといこのような正当理由を有していても、民法第一一〇条の適用を受けることができない。