仮処分の執行により仮の履行状態が作り出されたとしても、裁判所はかかる事実を斟酌しないで本案の請求の当否を判断すべきである。
仮処分の執行により仮の履行状態が作り出された場合と本案の裁判。
民訴法760条
判旨
仮処分の執行により特定物の引渡を受けた後に目的物が滅失した場合であっても、裁判所は仮処分の執行がなかった状態において請求の当否を判断すべきである。仮の履行状態およびその継続中に生じた新事態は、本案訴訟における請求の適否の判断資料とすることはできない。
問題の所在(論点)
本案訴訟の継続中に、仮処分の執行によって目的物の引渡しが実現し、さらにその後に目的物が滅失した場合、裁判所はその新事態を考慮して請求の当否を判断すべきか、それとも仮処分の執行がなかった状態を前提に判断すべきか。
規範
特定物の引渡しを目的とする訴訟において、仮処分の執行により権利者が満足を得た場合でも、それはあくまで仮の履行状態にすぎない。その当否は本案訴訟の結果に依存するものであるから、仮の履行状態およびその継続中に生じた新たな事態(目的物の滅失等)を、本案訴訟の当否を判断するための資料とすることは論理的に矛盾する。したがって、裁判所は仮処分の執行がなかった状態を前提として、請求の当否を判断すべきである。
重要事実
国(被上告人)が上告人に対し、特定土地の所有権に基づく妨害排除として土地の引渡しを求めて提訴した。国は本案訴訟の継続中に、仮処分の執行を受けて当該土地の引渡しを受けたが、その後、当該土地が埋没し滅失する事態が生じた。上告人は、土地が滅失した以上、引渡請求は認められないと主張して争った。
あてはめ
本件では、仮処分の執行により国が土地の引渡しを受けた後に土地が滅失している。しかし、仮処分による引渡しは暫定的な措置にすぎず、実体法上の権利関係を確定させるものではない。そのため、執行後に生じた土地の滅失という事態を考慮に入れて「引渡しが不能になった」と判断することは、仮の履行状態を本案の判断基準にするものであり、論理的矛盾を招く。よって、裁判所は仮処分の執行がなかった時点の状態(土地が存在し、上告人が占有していた状態)を基準に判断すべきであり、上告人の引渡義務を認めた判断は正当である。
結論
本案訴訟において、仮処分執行後の目的物滅失という事態を斟酌せず、執行前の状態に基づき請求を認諾した原判決は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
仮処分の性質(暫定性)と本案訴訟の独立性を論じる際の重要判例である。民事訴訟法上の「口頭弁論終結時」の標準時の例外的な扱いとして、仮処分による事実上の満足を理由とした請求棄却を否定する文脈で用いる。答案では、仮処分の満足的効力はあくまで仮定的なものであり、本案の勝敗を左右しないという論理構成で引用する。
事件番号: 昭和51(オ)937 / 裁判年月日: 昭和54年4月17日 / 結論: 棄却
いわゆる満足的仮処分の執行後に被保全権利の目的物の滅失等被保全権利に関して生じた事実状態の変動は、仮処分債権者においてその事実状態の変動を生じさせることが仮処分の必要性を根拠づけるものであり、実際上も仮処分執行に引き続いて右事実状態の変動を生じさせたため、その変動が実質において当該仮処分執行の一部をなすとみられるなどの…
事件番号: 昭和44(オ)540 / 裁判年月日: 昭和46年3月11日 / 結論: 棄却
一、第一審において仮執行宣言の申立が却下された場合には、附帯控訴により不服の申立をなすことを妨げない。 二、右附帯控訴にもかかわらず、控訴裁判所において仮執行の宣言が相当でないと判断するときは、その旨を判決の理由中において説示すれば足り、判決の主文において附帯控訴を棄却する旨を宣言する要はない。