一 D証券取引所の会員が、上場株式について、取引市場における買付の委託をうけることなく直接顧客と売買契約を締結しても、証券取引法第一二九条に違反するということはできない。 二 前項の契約を凍結することは、特定の場合を除き、旧D証券取引所業務規定第八八条に違反するけれども、これがために、売買契約の私法上の効力を否定すべきものではない。
一 証券取引所の会員が取引市場を経由しないで締結した上場株式売買契約が証券取引法第一二九条に違反しないとされた事例 二 右売買契約の効力
証券取引法129条,旧東京証券取引所業務規定88条,旧東京証券取引所業務規定89条(東京証券取引所定款18条の2)
判旨
証券取引所の会員が上場株式について市場を経由せず直接売買を行うことを禁じた業務規程は、取締法規にすぎず、これに違反した私法上の取引の効力は否定されない。また、証券取引法129条(当時)が禁ずる呑行為は、売買委託を受けた者が受託趣旨に反して自ら相手方となる行為を指し、直接売買には適用されない。
問題の所在(論点)
証券取引所の会員が、業務規程に反して上場株式を市場外で直接売買した場合、その私法上の効力は否定されるか。すなわち、当該規程は効力法規か取締法規か。
規範
証券取引所の業務規程において、会員が市場を経由せずに上場株式の売買を行うことを制限する定めは、取引所の機能を強化するための行政的な措置である。かかる規定は、いわゆる取締法規にすぎず、これに違反してなされた取引の私法上の効力までをも否定する趣旨ではない。また、呑行為の禁止規定は委託の趣旨に反する行為を禁ずるものであり、合意に基づく直接の売買契約を当然に無効とするものではない。
重要事実
証券取引所の会員である上告人と被上告人との間で、上場株式である株式10,000株を確定値段で売り渡す旨の売買契約が成立した。しかし、当時の取引所業務規程では、会員が上場株式につき市場外で直接売買を行うことが制限されていた。また、上告人は当初「売買契約」を主張したが、後に「買付委託」に主張を訂正した経緯があった。原審は、買付委託の事実は認められないとした上で、仮に直接売買があったとしても規程違反により無効であると判示し、上告人の請求を棄却した。
あてはめ
本件における取引所業務規程88条等は、取引市場の健全な機能維持という行政目的を達成するための制約である。かかる規定に違反したとしても、私的自治の原則に基づき成立した売買契約の効力を否定すべき特段の根拠はない。また、証券取引法129条が禁ずる「呑行為」は、顧客からの委託を前提とするものであるが、本件は当事者間で直接売買の合意がなされたものであり、委託関係を前提とする同条の禁止対象には当たらない。したがって、本件取引を公序良俗違反や効力法規違反として無効と解することはできない。
結論
本件売買契約を無効とした原審の判断は法令の解釈を誤ったものであるが、買付委託の事実が認められない以上、上告人の請求を棄却した結論において正当である。
実務上の射程
行政法規(特に業務規程やマニュアル等)に違反した契約の有効性が問題となる事案において、当該規定が単なる取締法規か、あるいは私法的効力を否定する効力法規かを区別する際のリーディングケースとなる。答案上は、法規の目的が公物管理や行政取締にある場合は「取締法規」として有効性を維持する論理に活用できる。
事件番号: 昭和56(オ)1015 / 裁判年月日: 昭和57年11月16日 / 結論: 棄却
商品取引員が商品取引所法(昭和四九年法律第二三号による改正前のもの)九一条の二第一項の規定に違反して登録外務員以外の者をして先物売買取引委託契約を締結させても、右違反は、右契約の効力に影響を及ぼさない。