一 裁判官が、前審において口頭弁論に列席し、当事者の陳述・証拠の申出・証人の供述を聴き、証拠決定をし、その他訴訟指揮に関する決定に関与したというだけでは、民事訴訟法第三五条第六号にいう裁判官が前審の裁判に関与した場合に当らない。 二 遡及買収基準日当時における住所の所在の認定につき爾後の事実をしんしやくすることは違法ではない。 三 原審認定の事実関係(原判決参照)の下では、被買収者は、遡及買収基準日当時在村地主であつたと認むべきものである。
一 前審関与にあたらない場合 二 遡及買収基準日当時における住所の所在の認定につき爾後の事実をしんしやくすることの許否 三 遡及買収基準日当時在村地主であつたと認められた事例
民訴法35条6号,民訴法185条,自作農創設特別措置法3条
判旨
民法上の住所(22条)は、主観的な居住の意思が生活関係において客観的に現れている場所をいい、基準日当時の住所を認定する資料としてその後の事実を斟酌することも許される。
問題の所在(論点)
農地買収の基準日当時において、被上告人の住所(生活の本拠)がa村にあったといえるか。また、基準日以降の事実を住所認定の資料として用いることができるか。
規範
「住所」(民法22条)とは、生活の本拠を指す。その判定にあたっては、当該場所に生活の本拠を置くという意思が、生活関係の上で客観的に現れているか否かによって決すべきである。また、特定の時点における住所の所在を認定するにあたって、その時点より前の事実に加え、その後の事実を総合して斟酌することも許容される。
重要事実
被上告人(農地買収処分を受けた者)は、昭和18年頃に家族全員でa村へ移転した。移転に際し、家具や什器の主要なものをa村に運び、以前の居住地である京都の家は借家のまま最小限の寝具等のみを残して、事実上閉鎖状態にあった。一方で、被上告人は京都弁護士会に所属し続け、京都の事務所を完全に廃止してはいなかった。また、a村への転入届の遅延、選挙人名簿への不登載、a村での所得税不納付といった事実も存在した。
あてはめ
被上告人は、家族全員と共にa村へ移転し、主要な家財道具も全て同所に搬送しており、a村を生活の本拠とする方針が客観的に現れている。京都の居宅は、訴訟業務のための最小限の設備を残すのみで雑草がはびこるなど閉鎖に近い状態であった。京都で弁護士業務を継続していた事実はあるが、家族の移動や家財の状態といった生活の実態に照らせば、a村が生活の本拠であると認められる。転入届の遅延等の公法上の不備は、右の客観的な生活実態に基づく住所認定を左右するものではない。また、基準日後の生活状況も、基準日当時の居住意思の継続性を確認する資料として有効に斟酌される。
結論
被上告人の住所はa村にあると認められる。したがって、基準日においてa村に住所を有していたことを前提とした原審の判断は正当である。
実務上の射程
住所の定義に関するリーディングケース。公法上の届出等よりも、実態としての生活関係を重視する。司法試験では、民法上の住所や公職選挙法・地方自治法上の居住要件が問題となる場面で、客観的な生活実態(家族の状況、家財の移動等)を総合考慮する際の規範として活用できる。
事件番号: 昭和38(オ)641 / 裁判年月日: 昭和38年11月19日 / 結論: 棄却
甲町に本籍を有し、風呂屋兼農業を営んでいる父とともに暮らしていた者が、父から農地の贈与を受けて分家し右農地の所在する乙町に本籍を定め、転居の届出もなし、同所において、供出米を納入し、生活必需品の配給を受け、また公租公課等を負担していた事実があつても、分家後も依然本家で風呂屋の手伝いをして生活し、右農地も本家において管理…
事件番号: 昭和26(オ)512 / 裁判年月日: 昭和32年2月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法上の住所(生活の本拠)とは、その人の生活関係一般における中心をなす場所をいい、その成立には主観的な意思のみならず、客観的事実が伴うことを要する。自作農創設特別措置法上の住所概念も、これと別異のものではない。 第1 事案の概要:自作農創設特別措置法(自創法)に基づき、被上告人の住所の有無が争われ…