一 親権者が子を代理する権限を濫用して法律行為をした場合において、その行為の相手方が権限濫用の事実を知り又は知り得べかりしときは、民法九三条ただし書の規定の類推適用により、その行為の効果は子には及ばない。 二 親権者が子を代理してその所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、代理権の濫用には当たらない。
一 親権者の代理権濫用の行為と民法九三条ただし書 二 親権者において子を代理してその所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為と代理権の濫用
民法93条ただし書,民法824条
判旨
親権者が子の不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、子の利益を無視して自己または第三者の利益を図ることのみを目的とするなど、代理権授与の法の趣旨に著しく反する特段の事情がない限り、代理権の濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
親権者が子を代理して子の所有不動産を第三者の債務の担保に供する行為が、民法824条の代理権の濫用に当たるか。また、その効果が子に及ばないための要件は何か。
規範
親権者が代理権を濫用して法律行為をした場合、相手方が濫用の事実を知り、または知り得たときは、民法93条ただし書の類推適用により、その行為の効果は子に及ばない。もっとも、利益相反行為に当たらない限り、子の財産処分等は親権者の広範な裁量に委ねられる。したがって、第三者のための担保提供が直ちに濫用となるわけではなく、子の利益を無視して自己または第三者の利益を図ることのみを目的とするなど、代理権を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる「特段の事情」がある場合に限り、濫用となる。
重要事実
未成年者である被上告人の母(親権者)Hは、被上告人の叔父Gが代表を務めるJ社の債務を担保するため、被上告人所有の土地に根抵当権を設定した。資金の使途はJ社の事業資金であり、被上告人の利益とは無関係であった。上告人(保証会社)は設定契約時、この事実を知っていた。なお、Gは被上告人の祖父の遺産分割以来、母子を支援する関係にあった。
事件番号: 昭和51(オ)1359 / 裁判年月日: 昭和52年3月31日 / 結論: 棄却
親権者が、債務者である株式会社の代表取締役として第三者から金銭を借り受け、右債務を担保するため、みずから個人として連帯保証をするとともに子の不動産につき根抵当権を設定する行為は、民法八二六条にいう利益相反行為にあたる。
あてはめ
原審は、資金使途が被上告人の利益にならず第三者の利益を図るものであることのみをもって濫用と判断した。しかし、親権者には広範な裁量があり、単に子に経済的利益をもたらさないことのみから直ちに濫用とは断定できない。本件では、親族関係やこれまでの生活支援状況等の諸般の事情を考慮し、子の利益を無視して専ら第三者の利益を図る「特段の事情」があるかを慎重に検討すべきである。これを確認せずに濫用とした原審の判断は、民法824条の解釈を誤っている。
結論
親権者の行為が代理権の濫用に該当するかは、単に経済的利益の有無だけでなく、「特段の事情」の有無により判断されるべきである。本件についてはさらに審理を尽くさせるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
親権者の包括的代理権(824条)に基づく行為が、形式的に利益相反(826条)に当たらない場合の事後的救済策として、93条1項但書類推適用の枠組みを提示したもの。実務上は、親権者の「裁量」を重視し、濫用の認定を極めて厳格(特段の事情)に制限している点に特徴がある。
事件番号: 昭和45(オ)593 / 裁判年月日: 昭和45年12月18日 / 結論: 破棄差戻
親権者が第三者の金銭債務についてみずから連帯保証人になるとともに、子の代理人として右債務を担保するため子の所有不動産に抵当権を設定する行為は、民法八二六条にいう利益相反行為にあたる。
事件番号: 昭和39(オ)264 / 裁判年月日: 昭和41年4月22日 / 結論: 棄却
一 民法第一〇九条の代理権授与表示者が、代理行為の相手方の悪意または過失を主張・立証した場合には、同条所定の責任を免れることができる。 二 甲が代理権を乙に授与した旨表示し、乙が、甲の代理人として、丙と甲所有の不動産について根抵当権を設定する旨の契約を締結した場合において、乙が右不動産の権利証、甲の白紙委任状及び印鑑証…
事件番号: 昭和31(オ)888 / 裁判年月日: 昭和35年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】親権者が子の代理人として行う行為が民法826条の「利益相反行為」に該当するか否かは、行為の動機や実質的な利害関係ではなく、行為自体の外形から客観的に判断すべきである。親権者が第三者の債務のために子の不動産に抵当権を設定する行為は、親権者自身の債務のための設定でない限り、原則として利益相反行為に当た…
事件番号: 昭和34(オ)1095 / 裁判年月日: 昭和37年5月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人が代理人に対し、不動産売買代金受領後に所有権移転登記手続を行う権限を授与した際、相手方が代理人の権限を信ずるに足りる正当な理由があると認められる場合には、民法110条の表見代理が成立する。 第1 事案の概要:本人は、訴外Dを信頼し、本件不動産の所有権がDに移転する前に、印鑑、印鑑証明、登記済証…