役員退職慰労金贈呈の株主総会決議取消しの訴えの係属中、右決議と同一の内容を持ち、右決議の取消判決が確定した場合にはさかのぼって効力を生ずるものとされている決議が有効に成立し、それが確定したときは、特別の事情がない限り、右決議取消しの訴えの利益は、失われる。
役員退職慰労金贈呈の株主総会決議取消しの訴えの係属中に当該決議と同一の内容の決議がされた場合と訴えの利益
商法247条,民訴法第2編第1章
判旨
株主総会決議の取消訴訟において、目的が同一の後続決議が適法に成立・確定した場合は、特段の事情がない限り、先行決議を取り消す訴えの利益は失われる。取締役等に対する過料制裁の立証上の便宜といった事情は、訴えの利益を肯定すべき理由には当たらない。
問題の所在(論点)
同一の内容を有する後続の株主総会決議が有効に成立・確定した場合において、瑕疵のある先行決議の取消しを求める訴えの利益(民事訴訟法上の利益)が認められるか。
規範
株主総会決議の取消訴訟において、当該決議(先行決議)を瑕疵なく代替する後続の決議が適法に成立し、かつ確定した場合には、先行決議を取り消すことによって得られる法的利益は消滅し、原則として訴えの利益は失われる。ただし、先行決議の取消しによってのみ回復しうる法的利益が存在するなどの「特別の事情」がある場合には、例外的に訴えの利益が認められる。なお、過料等の制裁を求めるための立証上の便宜は、法律上の利益には含まれない。
重要事実
被告会社は昭和62年の定時株主総会において、退任役員への退職慰労金贈呈を決議した(第一の決議)。原告らはこの決議の取消しを求めて提訴し、一審では取消判決が言い渡された。その後、被告会社は昭和63年の定時株主総会において、総額を明示するなど瑕疵を補正した上で、第一の決議と同一内容の議案を可決した(第二の決議)。第二の決議は、第一の決議の取消しが確定した場合に遡及的に効力を生じさせるものとされており、取消訴訟が提起されることなく確定した。
あてはめ
本件では、第一の決議を取り消したとしても、既に確定している第二の決議がこれに代わって効力を生じることになる。したがって、第一の決議を取り消すことによる法律上の実益はない。また、上告人は取締役らに対する過料の制裁を求める上で第一の決議の取消しが必要であると主張するが、制裁の賦課に取消判決は法律上必須ではなく、単なる立証上の便宜にすぎないため、訴えの利益を基礎付ける「特別の事情」には該当しない。以上より、本件訴えの利益は否定される。
結論
先行決議の取消しを求める訴えの利益は認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
会社法上の決議取消訴訟全般に射程が及ぶ。瑕疵のある決議がなされた後、会社側が「追認」や「決議のやり直し」によって瑕疵を治癒した場合の訴えの利益の判断基準として重要である。答案上は、後続決議によって紛争が実効的に解決されているかを検討し、特段の事情(遡及効の有無や他への影響)がない限り訴えの利益を否定する論理として用いる。
事件番号: 昭和44(オ)1112 / 裁判年月日: 昭和45年4月2日 / 結論: 棄却
一、役員選任の株主総会決議取消の訴の係属中、その決議に基づいて選任された取締役ら役員がすべて任期満了により退任し、その後の株主総会の決議によつて取締役ら役員が新たに選任されたときは、特別の事情のないかぎり、右決議取消の訴は、訴の利益を欠くに至るものと解すべきである。 二、前項の場合であつても、右株主総会決議取消の訴が当…
事件番号: 平成10(オ)1183 / 裁判年月日: 平成11年3月25日 / 結論: 棄却
取締役等を選任する甲株主総会決議の不存在確認請求に、同決議が存在しないことを理由とする後任取締役等の選任に係る乙株主総会決議の不存在確認請求が併合されている場合には、後の決議がいわゆる全員出席総会において行われたなどの特段の事情のない限り、先の決議についても存否の確認の利益が認められる。
事件番号: 昭和28(オ)1430 / 裁判年月日: 昭和30年10月20日 / 結論: 棄却
一 商法旧第二〇六条(昭和二五年法律第一六七号による改正前のもの)の施行当時、記名株式の譲渡があつたにかかわらず株主名簿の名義書換が会社の都合でおくれていても、会社が右譲渡を認め譲受人を株主として取り扱うことは妨げないと解するのが相当である。 二 株主総会決議取消の訴において、当該決議に取消の原因となるべき違法の点があ…