一 刑法第二〇〇条の犯罪成立後従来の民事法規によれば直系尊属であつた者が、かりにその改正によりその身分を失うに至つたとしても、かかる場合を、犯罪後の法律によりその刑に変更があつたときということはできない。 二 日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律施行後も姻族関係は、夫婦の一方が死亡いただけでは消滅しない。
一 刑法第二〇〇条の犯罪成立後の民法改正と刑の変更 二 日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律施行後も姻族関係は、夫婦の一方が死亡しただけで消滅するか
刑法200条,刑法6条,日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律3条,日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律附則1項,旧民法729条1項,新民法728条
判旨
犯罪成立後に民事法規の改正により被害者との親族関係が消滅したとしても、犯罪成立時の身分関係に基づき尊属殺(刑法200条)の成立は妨げられず、刑法6条の「法律の変更」にも当たらない。また、勾留から数月後の自白であっても、それまでの取調べの経緯に照らし任意性が認められる限り、不当に長く抑留・拘禁された後の自白として証拠能力を否定されることはない。
問題の所在(論点)
1. 犯罪成立後に身分関係を規定する民事法規が改正された場合、身分犯(尊属殺未遂)の成立や刑法6条の適用に影響を及ぼすか。2. 勾留後数月を経た後の自白が、憲法38条2項の「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」に該当するか。
規範
1. 被害者との親族(直系尊属)関係の有無は犯罪成立当時の民事法規等によって判定すべきである。2. 犯罪成立後に刑罰法令以外の民事法規が改正され、その身分を失ったとしても、既に成立した犯罪の成否に影響せず、刑法6条の刑の変更にも当たらない。3. 自白の証拠能力については、勾留期間のみならず、自白に至るまでの取調べの経過、否認と自白の変遷等の具体的状況を総合して、不当な抑留・拘禁下のものか否かを判断する。
事件番号: 昭和28(あ)1126 / 裁判年月日: 昭和32年2月20日 / 結論: 破棄差戻
刑法第二〇〇条にいわゆる配偶者の直系尊属とは、現に生存する配偶者の直系尊属を指すものと解するを相当とする。
重要事実
被告人は昭和18年にAと結婚し、Aの死亡後の昭和21年1月21日に家督相続人として届け出た。同年2月24日、被告人は同居中のAの実母B(姑)を殺害しようと飯に毒を散布したが、Bが異変に気づいたため未遂に終わった。当時の民法729条2項によれば、Bは被告人の配偶者の直系尊属であった。その後、昭和22年の民法改正(応急措置法)により同条項が廃止されたため、被告人は身分関係の消滅等を理由に尊属殺の不成立を主張した。また、被告人は逮捕後の取調べで自白と否認を繰り返したが、勾留から数月後の予審訊問での自白の任意性が争われた。
あてはめ
1. 被告人の行為時、民法729条2項が存続しており、Bが直系尊属であることは明白である。犯罪後の民法改正は、刑罰法令自体の変更ではないため、尊属殺の成立を阻却せず、刑法6条の「法律の変更」にも該当しない。2. 自白については、被告人は当初の自白後、複数回の取調べで否認に転じ、その後再び詳細な自白を行うなど変遷している。かかる経緯からすれば、単に勾留から数月経過しているという一点のみをもって「不当に長い拘禁」による自白とは評価できず、その他強制を疑う事情も認められない。
結論
犯罪成立時の民事法規により身分関係が認められる以上、尊属殺未遂罪が成立する。また、本件自白は不当な拘禁下のものとはいえず、証拠能力が認められる。
実務上の射程
身分関係の判定時期が「行為時」であることを明確にした点に意義がある。また、自白の証拠能力判断において、時間的経過という形式的要素だけでなく、供述の変遷等の実質的態様を重視する実務上の判断枠組みを示している。なお、尊属殺規定(旧刑法200条)自体は後に違憲判決(最大判昭48.4.4)により削除されている点に注意を要する。
事件番号: 昭和28(あ)2030 / 裁判年月日: 昭和30年6月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】尊属殺重罰規定である刑法200条(当時)は、法の下の平等を定める憲法14条および個人の尊厳・両性の本質的平等を定める憲法24条2項に違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、尊属殺(当時の刑法200条)の罪に問われたが、同条が憲法14条(法の下の平等)および憲法24条2項(尊厳と平等に基づく家族法…
事件番号: 昭和28(あ)185 / 裁判年月日: 昭和29年7月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法200条(旧規定)における配偶者の直系尊属を殺害した場合の尊属殺人罪の規定は、憲法14条の法の下の平等に違反せず合憲である。 第1 事案の概要:被告人が配偶者の直系尊属を殺害した事案において、第一審および控訴審は、旧刑法200条の尊属殺人罪を適用して処断した。弁護人は、尊属殺人罪の規定が憲法1…