刑法第二〇〇条にいわゆる配偶者の直系尊属とは、現に生存する配偶者の直系尊属を指すものと解するを相当とする。
刑法第二〇〇条にいわゆる配偶者の直系尊属の意義
刑法200条,憲法14条
判旨
刑法200条(当時)にいう「配偶者の直系尊属」とは、現に存する配偶者の直系尊属を指し、配偶者の死亡により配偶関係が消滅した後は、民法上の姻族関係が存続していても同条の適用はない。
問題の所在(論点)
配偶者が死亡して配偶関係が消滅した後、生存配偶者が亡夫の直系尊属を殺害しようとした行為について、刑法200条(尊属殺)の規定が適用されるか。特に、民法上の姻族関係が存続している場合に「配偶者の直系尊属」に当たるかが問題となる。
規範
刑罰法規の解釈は、特段の理由がない限り文理を超えることは許されない。刑法200条の「配偶者の直系尊属」という文言は、現在の配偶者の直系尊属を指すと解するのが当然であり、明文の根拠なく「配偶者であった者」の直系尊属まで拡張することは、罪刑法定主義の観点から許されない。
重要事実
被告人は、夫Aが病死した後、亡夫の父母であるBおよびCを殺害しようとして毒物を摂取させたが、未遂に終わった。民法上、夫の死亡後も被告人が姻族関係終了の意思表示をしていなかったため、B・Cとの姻族関係は存続していた。原審は、民法上の姻族関係がある以上、刑法200条の「配偶者の直系尊属」に当たると判断した。
あてはめ
まず、刑法200条の文言上、「配偶者」に過去の資格を含む明示がない。他法令では過去の地位を含む場合に「配偶者タリシ者」と明記するのが通例であり、文理上は現在の配偶者に限られる。次に、刑法は民法と性格・目的を異にする独自の見地を有しており、民法上の姻族関係の存続が直ちに刑法上の身分関係を基礎付けるものではない。生存配偶者の一方的意思で終了させ得る姻族関係のみを理由に、本来の親子関係に準ずる重罰を課す合理的根拠は乏しい。
結論
夫が死亡した後の妻による亡夫の直系尊属への殺害行為には、刑法200条は適用されず、刑法199条(普通殺人罪)が適用される。したがって、刑法200条を適用した原判決は破棄されるべきである。
実務上の射程
現在は尊属殺重罰規定(旧200条)自体が削除されているが、身分犯の解釈において「文理の厳格な解釈」と「民法上の概念と刑法上の概念の相対性」を示す先例として、刑法総論(身分犯の解釈)や罪刑法定主義の議論において参照される。
事件番号: 昭和27(れ)34 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 棄却
一 刑法第二〇〇条の犯罪成立後従来の民事法規によれば直系尊属であつた者が、かりにその改正によりその身分を失うに至つたとしても、かかる場合を、犯罪後の法律によりその刑に変更があつたときということはできない。 二 日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律施行後も姻族関係は、夫婦の一方が死亡いただけでは消滅しない。
事件番号: 昭和28(あ)185 / 裁判年月日: 昭和29年7月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法200条(旧規定)における配偶者の直系尊属を殺害した場合の尊属殺人罪の規定は、憲法14条の法の下の平等に違反せず合憲である。 第1 事案の概要:被告人が配偶者の直系尊属を殺害した事案において、第一審および控訴審は、旧刑法200条の尊属殺人罪を適用して処断した。弁護人は、尊属殺人罪の規定が憲法1…
事件番号: 昭和30(あ)4004 / 裁判年月日: 昭和31年6月12日 / 結論: 棄却
妻を殺害したのと同一機会に、殺意をもつて妻の母にも加害したがその目的を遂げなかつた所為は、尊属殺人未遂罪にあたる。