一 公判調書がすべて紛失して存在しない場合には、上告裁判所は自ら旧刑訴第四三五条によつて事実の取調をした上で、公判期日における訴訟手続が適法に行われたか否かを認定することができる。 二 公判調書紛失のため、公判調書以外の資料により公判期日における訴訟手続がすべて適法に行われたことが認められた場合には、その紛失した公判調書に裁判長、裁判所書記の署名捺印が存したか否かは問うところではない。
一 公判調書紛失の場合とその公判期日における訴訟手続の適法性の証明 二 紛失した公判調書における裁判長裁判所書記の署名捺印の存否とその公判期日における訴訟手続の適否
旧刑訴法60条,旧刑訴法63条,旧刑訴法64条,旧刑訴法435条
判旨
公判調書が紛失して存在しない場合、公判期日の訴訟手続が適法に行われたか否かは、公判調書以外の証明方法により証明することが許され、裁判所は事実の取調等に基づきその適否を認定できる。
問題の所在(論点)
公判調書が紛失し存在しない場合において、公判期日における訴訟手続の適否を公判調書以外の資料によって証明し、認定することができるか(公判調書の絶対的証明力の例外)。
規範
公判期日の訴訟手続は原則として公判調書のみによって証明すべきであるが(旧刑訴法64条、現行41条参照)、公判調書がすべて紛失して存在しない特段の事情がある場合には、公判調書以外の証明方法による証明も許される。上告裁判所は、訴訟関係人の証明や職権による事実の取調(旧刑訴法435条、現行393条・400条参照)を通じ、当該手続が適法に行われたか否かを実質的に認定することが可能である。
重要事実
被告人の関税法違反事件につき、原審(大阪高裁)の公判調書原本および判決原本を含む記録一冊が紛失し、被告人に対する原判決謄本等を除き一切の書類が存在しない状態となった。上告審において最高裁は、原審の裁判所書記官補による証明書、原審弁護人の回答書および弁護資料、公判立会検事の回答書などを綜合して、原審での公判手続の経緯を調査した。
あてはめ
本件では、関係者の回答書等によれば、公開の法廷で適法に公判が開かれ、被告人および弁護人が出頭して証拠調べが行われた事実が認められる。また、弁護人および検察官のいずれも、当時の手続が旧刑訴法所定の順序に従い適法に行われた旨を回答しており、当事者間に手続の適否に関する争いもない。このような公判調書以外の客観的な資料を綜合すれば、原審の公判審理および判決言渡手続は適法に履践されたものと認められる。したがって、署名押印の有無を問うまでもなく、手続は適法であると評価される。
結論
公判調書が紛失した場合でも、他の資料により手続の適法性が確認できる以上、原判決に訴訟手続の違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
公判調書の「絶対的証明力」の例外を認めた判例である。答案上は、記録滅失という極めて例外的な場面での救済法理として位置づけられる。現行刑事訴訟法41条下においても、記録が物理的に存在しない場合の事実認定の在り方を示す指針となる。
事件番号: 昭和30(あ)2949 / 裁判年月日: 昭和31年9月13日 / 結論: 棄却
犯罪事実を認定するには適法な証拠調を経た証拠によることを要するが、記録によれば、第一審第二回公判期日において所論証拠書類が適法に証拠調べを施行された旨の記載があるから、その適法な証拠調がなされたことは明らかである。該証拠書類が記録に編綴されているかどうかは、犯罪事実の認定を左右するものではない。所論は、証拠書類が記録に…