一 原判決が証拠とした所論「出入国管理庁審判調査第三課作成の検察官に対する解答書」(正確には、同課から千葉地検渋佐検事に対する回答電信の飜訳書)の内容が所論のとおり(被告人の外国人登録が見当らないとするもの)であることは相違ないが、これにより被告人が従来日本に居なかつたことが推認できるから被告人の第一審公判廷における詳細な自白に対する補強証拠としてはこれを以つて足りるものということができる。従つて、被告人の第一審公判廷における自白と前記書面とによつて、本件密入国の事実を認定した原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。 二 すでに占領軍軍事裁判所の裁判を経た事実について、重ねてわが裁判所で処罰しても、憲法第三九条に違反しない。
一 密入国の補強証拠の一事例 二 占領軍軍事裁判所の裁判と憲法第三九条
外国人登録令3条,刑訴法319条2項,刑訴法317条,憲法31条,憲法38条3項,憲法39条,刑法5条
判旨
憲法39条が禁じる二重処罰とは、わが国の裁判権に基づく重ねての問責を指すため、わが国の裁判権に基づかない占領軍軍事裁判所による判決後に、重ねてわが国の裁判所で処罰することは同条に違反しない。
問題の所在(論点)
占領軍軍事裁判所による有罪判決及び刑の執行を経た事実について、再びわが国の裁判所で刑事責任を問うことが、憲法39条の禁じる二重処罰に該当するか。
規範
憲法39条は、同一の犯罪につき、わが国の憲法による裁判権によって二重に刑事上の責任を問うことを禁じた趣旨と解すべきである。したがって、同一事実についての前の裁判と後の裁判とが、共にわが国の裁判権に基づくものである場合(国内の二重処罰)に限り、同条の二重問責の禁止に抵触する。
重要事実
被告人は朝鮮国籍の外国人であり、昭和24年に連合国最高司令官の承認を受けず不法に入国した。この事実について、被告人は昭和26年に占領軍軍事裁判所(東京一般憲兵裁判所)において「占領軍の安全に有害な行為」として有罪判決を受け、服役した。その後、平和条約の発効により釈放されたが、日本の検察当局は同一の不法入国の事実を理由に被告人を起訴し、原審は懲役6月の判決を言い渡した。これに対し、被告人側が二重処罰禁止の原則(憲法39条)に違反すると主張して上告した。
あてはめ
占領軍軍事裁判所は連合国最高司令官によって設立されたものであり、その裁判権は同司令官の権限に由来する。これはわが国の憲法に基づく裁判権(司法権)とは別個の系統に属するものである。したがって、前後の裁判が共にわが国の裁判権に基づくものであるという要件を満たさない。そのため、占領軍軍事裁判所による判決後のわが国での処罰は、憲法39条が禁じる「二重の刑事上の責任」の追及にはあたらないと評価される。
結論
占領軍軍事裁判所での処罰後にわが国の裁判権により処罰することは憲法39条に違反しない。よって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
本判決は、外国裁判所やそれに準ずる国際的機関による処罰がわが国の二重処罰禁止(憲法39条)の適用外であることを明示した。実務上、外国で確定判決を受けた行為であっても、刑法5条(外国判決の効力)に基づき日本で重ねて処罰することが憲法上許容される根拠となる。答案上は、二重処罰禁止の対象を「わが国の裁判権の行使」に限定する判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)3594 / 裁判年月日: 昭和32年6月19日 / 結論: 棄却
一 憲法第二二条は外国人の日本国に入国することについてなにら規定していないものというべきである。 二 外国人登録令第三条、第一二条は憲法第二二条に違反しない。