一 鑑定の目的物を破壊するについて、刑訴第一六八条所定の裁判所の許可を受けなかつた場合でも、右処置に対し当該強制処分の対象となつた者から異議がなされていない以上、その鑑定の証拠能力を否定すべき理由はない。 二 軽犯罪法第一条第一九号は、正当の理由なくして変死体又は死胎の現場を変える行為を取り締ろうとする法意であつて、故意に死体を放棄する行為を処罰の対象とする死体遺棄罪とはその罪質を異にする。
一 鑑定の目的物を破壊するについて刑訴第一六八条所定の裁判所の許可を受けなかつた場合と当該鑑定の証拠能力 二 軽犯罪法第一条第一九号の法意
刑訴法168条,刑訴法317条,刑訴法318条,軽犯罪法1条19号,刑法190条
判旨
被告人の拘禁中に裁判所外で証人尋問が行われる場合、弁護人に立会の機会を与えれば、必ずしも被告人本人を立ち会わせなくても憲法37条2項に違反しない。また、鑑定の際に許可なく物を損壊した場合であっても、対象者からの異議等がない限り、直ちにその鑑定の証拠能力が否定されるものではない。
問題の所在(論点)
1. 被告人が欠席した裁判所外の証人尋問が、憲法37条2項の証人審問権を侵害しないか。2. 裁判所の許可なく鑑定のために物を損壊した場合、当該鑑定結果の証拠能力が否定されるか。3. 同一建物内での死体の移動が「遺棄」に該当するか。
規範
1. 証人審問権(憲法37条2項)について:被告人の拘禁中に裁判所外で証人尋問を行う場合、特別の事情のない限り、弁護人に日時・場所を通知して立会の機会を与えれば、被告人自身を立ち会わせなくても同条に違反しない。2. 鑑定処分(刑訴法168条)の違法と証拠能力:鑑定の際に許可を受けずに物を破壊した場合であっても、基本的人権を保護するための同条の趣旨に照らし、対象者から異議がない等の事情があれば、その一事をもって直ちに鑑定の証拠能力を否定すべきではない。3. 死体遺棄罪(刑法190条):同罪は、死体を現在の場所から他に移して放棄することにより成立し、建物外への搬出は要件ではない。
重要事実
被告人は共犯者と共に殺害した被害者の死体を、現場である宿直室から同じ建物内の使用禁止中の便所に運び込み、所持品と共に隠匿し、便所の戸を外から釘付けにした。この事案の公判過程において、被告人が拘禁中、裁判所外で証人Aらの尋問が行われたが、被告人本人は立ち会わず、弁護人のみが立ち会い反対尋問を行った。また、血液鑑定に際し、鑑定人が裁判所の許可なく証拠物であるズボンの小部分を切り取ったが、これに対し被告人側から異議の申し立てはなかった。
あてはめ
1. 証人尋問について、被告人は不参加であったが、主任弁護人らが立ち会い、反対尋問を妨害された形跡もない。さらに、後の公判期日で適法な証拠調べが行われ、被告人・弁護人共に証拠力を争わない旨を述べていることから、実質的な審問権は保障されている。2. 鑑定について、ズボンの切り取りが物の破壊に当たるとしても、人権保護を目的とする法168条に基づく異議がなされていない以上、手続上の不備のみで証拠能力を否定することはできない。3. 死体遺棄について、殺害現場から離れた便所へ移動させ、釘付けにする行為は、死体の占有場所を移して放棄する行為に該当する。
結論
被告人が証人尋問に立ち会わなくても、弁護人に立会の機会が与えられ、実質的な審問権の行使が保障されていれば合憲である。また、鑑定における軽微な手続違反や、同一建物内の死体移動についても、原審の有罪判断に違法はない。
実務上の射程
証人審問権の保障が「被告人本人による直接の対面・尋問」だけでなく、弁護人を通じた「実質的な機会の付与」で足りる場合があることを示す。また、鑑定処分の許可(刑訴法168条)を欠く違法があったとしても、直ちに証拠排除されるわけではないという、違法収集証拠排除法則に近い判断枠組みを示唆しており、手続の瑕疵と証拠能力の関係を論じる際の参考となる。
事件番号: 昭和29(あ)2329 / 裁判年月日: 昭和29年10月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】勾留中の被告人が検証現場等における証人尋問に立ち会わなかった場合であっても、日時場所の通知がなされ、弁護人が立ち会い反対尋問を行うなど立会の機会が実質的に保障されていたのであれば、憲法37条2項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人ら3名が勾留中に、検証現場付近において証人尋問が行われた。この証…